上林誠知に意地の3奪三振。浦和学院・小島和哉が182球の熱投も涙

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

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こんな対決あったのか!
高校野球レア勝負@甲子園
第4回 2013年夏
上林誠知(仙台育英)×小島和哉(浦和学院)

 死闘が終わり、帰路につくためにスタンドの通路に向かう観客たちは、みな一様に興奮が収まりきらないようだった。

 ふいに30歳前後のサラリーマンとおぼしき男性の嘆き節が耳に入ってきた。

「かわいい売り子の名前を忘れたじゃねぇか〜!」

 ぷっと吹き出すとともに、「それも無理はない」と納得してしまう試合だった。この日はプライベートでひとりの野球ファンとして観戦した私も、しばらく魂を抜かれたように呆けていた。

高校時代から天才的なバッティングを披露していた上林誠知高校時代から天才的なバッティングを披露していた上林誠知 2013年8月10日、第95回全国高校野球選手権大会1回戦・仙台育英対浦和学院戦は、第4試合ということもあり、開始時刻は日が傾きかけた16時35分だった。

 浦和学院は同年のセンバツ王者。仙台育英はセンバツベスト8。実力校同士の好カードとあって、4万2000人の大観衆が甲子園に詰めかけた。仙台育英には高校球界屈指の強打者・上林誠知(現・ソフトバンク)、浦和学院には安定感抜群の左腕・小島和哉(現・ロッテ)とドラフト候補の対決も注目ポイントだった。

 とはいえ、朝8時からの第1試合から甲子園のスタンドに留まり、銀傘の日陰にならない炎天下で過ごした身としては、試合の最後まで集中力が持つか心配だった。試合前のシートノックはボーッと見て過ごし、「なぜ、仙台育英のライトは4人も入っているんだろう......」と、その時はどうでもいい疑問を抱いたことを覚えている。

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