恩師の情熱がヤンチャ球児を変えた。強い思いでオリ育成から這い上がる (2ページ目)

  • 高木遊●文 text by Takagi Yu
  • photo by Takagi Yu

秋季リーグ優勝の瞬間、レフトから全速力で歓喜の輪に加わる大下誠一郎秋季リーグ優勝の瞬間、レフトから全速力で歓喜の輪に加わる大下誠一郎 けっして足は速くない。それでも全力で攻守に取り組み、レフトを守った時は三塁側のブルペンのマウンドに突っ込んで捕球を試みる。こんなシーンが見られたのは公式戦ではなく、3月のオープン戦だった。視察していた担当のオリックス・牧田勝吾スカウトも、この姿勢を称賛していた。

 指名後、牧田スカウトは次のようにコメントした。

「フルスイングが持ち味の右の強打者。常に全力プレーでチームを牽引するなど、リーダーシップもあり、将来的にはチームの中心選手として活躍が期待される選手」

 白鴎大が所属する関甲新学生野球連盟の関係者も「いずれオリックスのクリーンアップを打つだけの力はある」と、大下の実力に太鼓判を押す。

 とはいえ、現実は支配下指名ではなく育成指名だ。ここから這い上がらなければならない。大下も迷うところはあったが、それでも黒宮監督はプロ入りへ背中を押した。

 決め手は「やっぱり負けん気ですよ」と言い、「ウチ(白鴎大)からプロに行った岡島豪郎(楽天)、塚田正義(ソフトバンク)、大山悠輔(阪神)らと比べても勝るものがあります」と期待をかける。

 大下も「人一倍か、それ以上やらんといけん。選ばれなかったヤツの分もやらないかん」と、ドラフト候補に挙がりながらも指名漏れしたチームメイトの金子莉久(りく)やミレス・レンソのことを気遣いつつ、決意を固めた。

 学生としての戦いはまだ続く。同リーグの宿敵・上武大を連勝で破り、関甲新学生野球秋季リーグを優勝。明治神宮大会関東代表決定戦となる横浜市長杯が横浜スタジアムで1028日に開幕し、白鴎大は29日に初戦(2回戦)を迎える。その試合に勝ち、続く準決勝でも勝利すれば、8強入りした昨年春以来の全国大会出場が決まる。

 大下の座右の銘は「最後まであきらめないヤツが勝つ」。野球に、そして恩師に救われ、自らだけでなく周囲にも大きな活力を与える存在になった。そしてそれは、スタンドやテレビの向こう側にいる我々の心にも届くことだろう。

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