履正社ナインが語る豪打の秘密。ねじ伏せられた屈辱が才能に火をつけた (4ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

「相手は左投手で、変化球を張っていたところ真っすぐが来たんです。今までなら完全に詰まって打ち取られる感じだったのが、差し込まれ気味でもバットの芯でとられてボールは飛んでいったんです。このぐらい差し込まれる感じで打っても大丈夫だというがわかって......体のなかでとらえる感覚がわかった感じがしたんです」

 じつはその1週間前、履正社は石川に遠征し、星稜と練習試合を行なっていた。奥川が先発のマウンドに上がり、6回を4安打、1失点、9奪三振と、またも抑えられた格好だったが、井上は「少し成長も感じられたし、大きな意味のある試合でした」と振り返った。

 井上は大阪大会で打率.407、4本塁打。三振も7試合でわずか3つと成長のあとを見せつけ、甲子園初戦でも実力どおりのバッティングを披露した。

 それでもまだ確信は得ていなかった。2回戦の相手はプロ注目の右腕・前佑囲斗(まえ・ゆいと)擁する津田学園(三重)。対戦前、岡田監督は「かなりレベルの高い投手。初戦のようにうまくはいかないでしょう」と表情を引き締めていた。

 しかし結果は、またしても"強打の履正社"だった。本塁打こそなかったが、6本の長打を含む12安打7得点。履正社の核弾頭・桃谷惟吹(いぶき)は好調の理由についてこう語る。

「奥川くんとの対戦から学んだことが多くて、対応力が上がったのが今につながっていると思います。あのままでは、次に(奥川と)対戦してもやられると。そこで選手なりに考えて打つようになりました」

 具体的に言うと、桃谷はセンバツ後、タイミングの取り方を変えた。

「センバツでは左足を上げて打っていたのですが、ほとんど上げないようにしました。奥川くんに手も足も出なかったので、とにかくミート力を上げようと思って変えました」

 これまで慣れ親しんだフォームを変えることは簡単ではなかったが、対応力アップを最優先に取り組んできた。

「春の(大阪)大会も打てずに負けて、そのあとから本格的にいろいろ試したんですけど、なかなか難しくて......しっくりくるようになったのは、夏の大会に入ってからでした」

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