都立高の野球監督にジェネレーション闘争。甲子園を叶えるのは誰だ? (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 有馬監督の「有望な若手指導者がいない」という発言をどう受け止めますか? そう聞くと、田北監督は「すみません、全然気にしてないです」と不敵に笑った。

「有馬先生とは話すより、野球をやりたいですよね! 有馬先生がすごいのは、あれだけ実績のある人なのにまだ勉強したいと思っていること。僕も有馬先生から『ちょっと教えてよ』と言われるような存在になりたいです」

 田北監督の特色は、周りの人間をいつの間にか巻き込んでしまうことだ。特に野球に一家言ある父親が選手を指導することに対して、規制することはないという。多くの指導者が保護者やOBの介入を嫌うなか、田北監督は歓迎するばかりか、むしろ取り込んで力に換えてしまっている。

「都立校は指導者の異動があるので、組織を継続していくのが難しいんです。でも、OBは母校愛があるから戻ってくる。保護者やOBに応援してもらう環境を作るために『言いたいことは言ってください』と伝えています。もちろん、チーム方針を理解してもらった上でのことですけどね」

 そして、最後に変わり種の監督を紹介したい。今年で39歳になる、都八潮の鈴木秀志監督だ。といっても、八潮に硬式野球部はなく、軟式野球部しかない。

 鈴木監督は恰幅(かっぷく)のいい体型に、髪型はリーゼントヘアという個性的な風貌だ。それは教員になる前に、印刷会社の営業マンとして4年間勤務した経験が大きいという。

「一度お会いしただけでも『トサカ』と呼ばれて、覚えてもらえますから(笑)」

 駒場東邦中・高では軟式野球部、立教大で初めて硬式野球部に入部したが、「先輩にボコボコにされまして(笑)」と退部。生徒指導に生かすためという理由でサラリーマンになったことも含め異色の経歴ではあるが、野球指導者としての実績はない。

 だが、複数の都内指導者が「将来必ず出てくる男」と太鼓判を押している。新宿の田久保監督とは、田久保監督が都園芸、鈴木監督が広尾学園と、互いに軟式野球の指導をしていた頃からの仲だという。

「いずれは硬式野球部の指導をして、甲子園を狙いたいと思っています。でも、普段の授業で生徒の目が輝かないなら、甲子園なんて意味がない。僕は勝負師ではなく、指導者でありたいんです」

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