【新車のツボ101】トヨタ・ミライ試乗レポート

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 車名はまさにそのままズバリ......のトヨタの"ミライ"は、世界初の量産燃料電池自動車だ。燃料電池というと語感からバッテリー的なものをイメージしがちだが、それは英語の"FUEL CELL"を最初に直訳してしまったせい。燃料電池そのものに蓄電機能はなく、その正体は"発電機"である。

 電力会社が使う発電方法は基本的に、なにかしらのエネルギーで発電機をブン回す(それは水力も火力も、原子力も、風力も地熱もすべて同じである)のだが、燃料電池は発電原理が根本的に異なり、水素と(大気中の)酸素を化学反応させて電気をおこす。水素(H)と酸素(O)が反応しても出てくるのはH2O=水だけ......ということで、燃料電池は究極のクリーンエネルギーともいわれる。

 というわけで、燃料電池車の基本は電気自動車(EV)そのものだが、既存のEVのように充電する必要はなく、かわりに水素を補充しながら走る。ミライの満タンあたりの航続距離はJC08モードで約650kmだから、一般的な(燃費がちょっと悪めの)ガソリン車と同等。水素の補充時間は1回あたり3分程度。水素ステーションさえあれば"エンジン車とまったく同じように使えるEV"というのが、燃料電池車最大のツボなのだ。

 実際、ミライの走りは日産リーフなどと同じく、まんまEV。まあ、EV自体がまだ一般的とはいえないが、停止時からの発進加速はのけぞるくらいに強力。普通に流して走るかぎり、タイヤと路面がこすれたり、路面からの衝撃をクルマが受け取める音(ロードノイズ)とボディ表面を空気が流れる音(ウインドノイズ)しか聞こえない。そして重量物が床下に集中しているために、低重心で意外なほど路面にへばりついた安定感......といった走りのツボは、すべてEVのそれと同じ。ミライの性能をあえて既存のガソリン車にたとえると、総合的には2.5~3.0リッター級で、フル加速時のみ3.5~4.0リッターを思わせる強力さ......といえばいいか。

 EVとちがって、フル加速では水素を大量に取り込む必要があるために、アクセル操作に合わせて"ブィーン"という吸気音(というかポンプ音)が聞こえてくる。この点は無音がツボのEVとしては解決すべき課題なんだろうが、私のようなオタク系旧世代のクルマ好きには、かえって「頼もしくて可愛いやんけ!」などとツボが刺激される。これで「(理屈では)ガソリン車と同じように使える」のだから、ミライは現時点で十分以上に魅力的なクルマといっていい。

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