日本新を連発した青木玲緒樹が27歳で覚醒。「自分の考え方が間違っていたのかなとも思う」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Ninomiya Wataru

【平井コーチも認める才能】

 青木を指導する平井伯昌コーチは、「小学生の時から才能はピカイチだと信じてやってきた」と、中学生時代から北島康介などトップ選手の高地合宿に毎年参加させていた。日本女子平泳ぎの牽引者になると期待されていたが、調子の波が大きい選手だった。2019年日本選手権は、100mで5位、200mは10位と惨敗。2カ月後のジャパンオープンの100mは1位で、200mが2位と世界選手権の代表に入り、本番では100mで4位と惜しい結果だったが、そこからは自己記録を更新できない日々が続いた。

 東京五輪の100mは出場したものの、自己記録より1秒39遅い1分07秒29で予選19位敗退という結果に。同時期にデビューした1学年下の大橋に大きな差をつけられた。

 五輪後は現役続行を決めたが気持ちが乗らず、何度も「やめる」と口にしていた。迷いを持ちながら出場した、1月末の「KOUSUKE KITAJIMA CUP 2022」の100mは、渡部香生子(USM)に敗れる2位だった。

「1カ月前は正直、選考会で泳ぐか泳がないかという話をしていた」という青木だったが、それでも今大会予選からすばらしい泳ぎを見せた。決勝でもスタートからの浮き上がりで頭ふたつほどリードすると、キレのある大きな泳ぎで前半の50mは渡部の日本記録の通過タイムを0秒87上回る30秒54で通過。後半も焦ったような動きはなくスムーズに泳ぎ、1分05秒19でゴールした。

「派遣標準Ⅲの1分06秒64を切れればいいと思っていたので、日本記録は信じられない気持ちです。すごく緊張していたけど、平井先生にはレースでは気をつけるポイントを意識することと周りを見ないようにと言われ、スタートからのタイミングや、ターン後も力まずに泳ぐというフォームに集中するということだけを考えていました。東京五輪は緊張して何もわからないまま終わったけど、今日のように気をつけるポイントを決めて焦らず冷静に泳ぐようにすれば、あまり緊張もしないのかなと思いました」

 技術的には、これまでは腕の掻きが深くなって肘を引きすぎていたところを、平井コーチのアドバイスで「水面に近いところを掻き、ストリームラインを保った体を前に持って行くように」と言われ、それを練習から気をつけていたという。そして今回、その泳ぎを本番で再現することができた。

「ここ2~3年は、ちょっと力づくな泳ぎになって技術がしっくりこない感じがあったのですが、アドバイスされたことをやってこういう結果が出ると、これまでの自分の考え方が間違っていたのかなとも思う。技術面をこれからもっと改善していけば、もっと速く泳げるようになると思いました」

 平井コーチは「そのことは何回も言ってきたが、玲緒樹の場合は『こうすれば速くなる』と自分で思い込んでいたものがあったので、なかなかやらなかった。レースのあとで『これって本当に速くなるんですね。当たっていました』と言ってきたので、『今まで俺を信じてなかったのか』と、ガクッとしましたよ」と笑う。

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