名言「チョー気持ちいい!」の直後、北島康介はボロボロと涙を流した (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by PHOTO KISHIMOTO

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 さらに苦難が襲いかかる。帰国後には左ヒザにガングリオンができてしまい、それを治療で潰したために、高地合宿に出発する6月末の時点で平泳ぎができない状態になってしまったのだ。

 そして、調子が上がってこないままだったスペインのグラナダ合宿中、北島と平井の下に衝撃的なニュースが届いた。7月の全米選手権100mで、ブレンダン・ハンセンが59秒30で世界記録を更新。その3日後には、200mでも2分09秒04の世界記録を出した。

 その知らせを聞いて気合いが入った北島は、徐々に調子を上げていったが、本来の調子にはなかなか戻らない。本当に戦えるようになったと平井コーチが判断したのは、五輪本番の10日前。イタリア・サルディーニャ島での最後の調整合宿だった。

「サルディーニャに入ってからの康介は、日に日に自信に満ちた顔になっていった」と平井は話す。北島は「これで完璧だ、と思った。気持ちも盛り上がってきました。ただ、『やれるぞ!』と思ったというより、『これで行くぞ!』という開き直った気持ちのほうが強かった。ハンセンのことは常に考えていたけど、勝ち負けよりも、やることはすべてやったという感じでした」と振り返る。

 とはいえ、危惧すべきこともあった。もしハンセンが全米で出した59秒30と同レベルのタイムを本番で出してきたときに、はたして北島が対抗できるのか、ということだ。そのために平井がとったのは、最初の予選でハンセンにプレッシャーを与える作戦だった。

 100m平泳ぎ予選は、競泳初日の8月14日の昼に行なわれた。北島は滑らかな力強い泳ぎで、五輪新の1分00秒03を出した。それまでの状況を聞いていただけに、安堵する気持ちが強かった。一方、ハンセンは1分00秒25だった。

 北島はのちに「練習で調子がよくても、本当の体調は予選を泳いでみないとわからない」と話している。

「練習で自信があってもレースで速く泳げなかったら、そんな自信は一瞬で吹き飛んでしまう。だから予選の前は緊張していたけど、タイムを見て正直ほっとしたというか、初めて『戦える』と思った。もしも、予選でハンセンが59秒台を出していたら決勝では勝てなかったかもしれない。でも、結果的に僕は余裕を持てた。今思えば、僕があそこで彼にプレッシャーをかけていたのかもしれない」

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