星奈津美、金メダル獲得。自覚した「リオ五輪金メダル」への責任感 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 藤田孝夫/フォートキシモト●写真 photo by Fujita Takao/PHOTO KISHIMOTO

 だがそんな乱れにも、星は冷静だった。

「自分の中では1分0秒台で入れてるかなと思ったけど、周りの選手もけっこう飛ばしていたので『ここで焦ってはいけないな』という気持ちがありました。勝負は最後の50mだから100mをターンしたあとも少し余力を残しておこうと思っていたけど、周りの選手のペースが思ったより落ちていたので、『このまま捉えていけばいけるかな』というのはその辺りで感じました」

 後半は夢中でストローク数も数えられなかったという星だが、平井コーチの「50m以降の各ラップタイムは32秒台を維持する」という指示通りに泳いで勝負を決めた。「久しぶりの自分の理想とするレースというか、後半を1分4秒台で帰ってこられたのは多分2分04秒69の自己ベストを出したロンドン五輪の年の日本選手権以来だと思うので。前半は少しだけ消極的になったところはあるけど、後半で粘る自分の持ち味を生かせたレースが久しぶりにできたのは良かった」

 こう話す星はプールから上がり、テレビの取材ブースで寺川綾の姿を見つけると涙が流れ出した。

「結局、号泣したままのインタビューになったけど、そこが今までのことを一番思い出した瞬間でした」と苦笑する。

 昨年の11月に持病のパセドー病を完治させるために、甲状腺の全摘出手術をしていた。それはロンドン五輪で銅色だったメダルを、リオ五輪では金色にするためだった。さらに手術後には平井コーチに師事し、萩野公介らの東洋大勢と一緒に練習をするようになっていた。涙が流れたとき、お世話になった医師や、関係者の顔を思い出したという。

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