日本シンクロ復権へ。「本当に強い国」への第一歩 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 藤田孝夫/フォートキシモト●写真 photo by Fujita Takao/PHOTO KISHIMOTO

 この結果を井村コーチは、「確かに伸びやかさでは負けていたけど、同調していない表現で点が取れるのは納得できない。テクニック的には負けていると思わないし、同調性も全然負けていない。予選を見ていたら泳ぎが少し重かったけど、それに比べると決勝の方が軽くなったというか、勢いがあって体に水がまとわりついていなかった。ふたりは本当に良くやったと思います」と語った。

 そんな悔しさが翌日のチームに向けて大きな起爆剤になった。試合後は他のチームがいなくなった午後9時まで練習をした。そしてミーティングでは、「デュエットのふたりがメダルを獲れなかったけど、日本の勢いがそれで止まるわけではない。ウクライナも本気でやってくるだろうけど、自分たちも負けないように戦っていこう、と話した」と三井は言う。テクニカルでメダルを獲った選手は、本気で「もうひとつメダルが欲しい」と思い、テクニカルには出ていなかった林愛子も「絶対に表彰台へ上がりたい」と強い気持ちにつながっていった。

 本番では細かな技術や動きを駆使した演技を通した日本。実施ではウクライナに劣ったものの、アーティスティックインプレッションと難易度の評価ではウクライナを上回り、0.2点差をつけて勝利を手にした。

「選手たちにメダルを獲らせたかったのは、私が普段の練習の中では与えられないものを彼女たちに与えることができるからです。この大きな舞台で抜いて抜かれてという戦いのなかでは、"怖さ"と"絶対にやってやる"という気持ちの葛藤もある。それに立ち向かうことの意味は、勝った瞬間にわかるものなので、それを経験してもらいたかったんです」

 こう話す井村コーチは、「これでチームに関してはウクライナに勝ったということになった」という。だが「日本が勝っている部分は絶対にあるが、向こうにあって日本には無いものもある。その部分は来年の五輪までに追いついて、すべての面で負けるものはないところまで持っていかなければいけないと思う」と気持を引き締める。

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