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女子100mハードルは陸上日本選手権の最注目競技に 急成長の中島ひとみ、地力アップの福部真子も存在感 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【苦しい状況で3位を掴み取った日本記録保持者・福部】

 そんな中島と同じように、福部も予選から圧巻の走りを見せていた。昨年は7月に12秒69の日本記録を樹立し、パリ五輪では準決勝進出を果たしていたが、12月に組織球性壊死性リンパ節炎の「菊池病」を発症して治療中であることを明らかにしていた。

 さらに1月には膝を痛めて3週間走れない時期もあり、4月29日の織田記念は欠場。今季初戦となったゴールデングランプリは13秒12で7位と不安を感じさせていた。だが、日本選手権は予選で12秒84を出すと、その2時間後の準決勝では無風の条件で、昨年自身が出した大会記録に並ぶ12秒75で2位以下をぶっちぎる強さを見せた。

病気に関しては「微熱は出るが、38度までいかないので2~3時間横になっていれば熱が治まるっていう状態。もう37度を平熱として捉えてやっていくしかないと思ってやっています」と言う。

 そのなかで「ハードルを跳び始めたのも6月20日からで、計画どおりにはいかなくて不安はあったが、走っている感じでは(12秒)7台の走りではなかったので記録を見てびっくりした。でもウェイトトレーニングと低酸素でバイクを漕いだり、加圧トレーニングなどでエンジン自体は大きくしてきた。走る練習ができてなかったのですごく不安だったけど、思ったより地力がついているなというのは感じられた」と話すように、これまでより体幹のパワフルさが数段増しているような走りだった。

「寺田さんと清山さんが、今回が最後の日本選手権と聞いていたので、何がなんでも決勝の舞台で一緒に走りたいというのもありました......。やっぱりゴールして、ふたりの顔を見たら、もう寂しくなっちゃって涙が止まらなくなった」

 今回の日本選手権への思いをこう話す福部だが、「体調のこともいろいろあって、この試合自体は8番に入ることを目標に入ってきたが、予選で思いのほか、タイムがよかったので欲が出て準決勝は狙いにいってしまった。でも試合に出ていなかったし、練習強度が高いものが積めていなかったので、次の日になってダメージという形で出てしまった」と、決勝は膝の違和感があるなかでの走りになって全力は出せなかった。

 それでも12秒93で3位。「予選と準決で地力自体は上がっているなと確認でき、決勝のタイムで、最低でも9台前半や84、75というのはいつでも出せる状態にあると確認ができたのでよかったと思う」と評価する。

「8月に(世界陸上の参加)標準記録突破を目標にしているので、しっかり減量して走る練習も積めればさらなる記録更新もできるはず。去年までは12秒60までが自分のなかで限界かなと思っていたが、5台中盤辺りは確実に出そうだと準決勝の走りで見えてきたので、収穫のある試合でした」

 優勝した田中は9月の東京世界陸上の出場資格の対象となる世界ランキングでは、今大会の結果が入る前の時点で25位と安全圏内にいるが、出場枠40名の圏外にいる福部と中島は世界陸上出場を確実にするためには12秒73の参加標準記録突破が必須だ。ふたりはこれから記録の適用期間である8月24日までに、その記録を目標にしていく(決勝進出者8人に世界陸上出場の可能性は残されている)。

 その挑戦は「まだ世界にはもう一歩」という状態の日本女子100mハードルのレベルをさらに一段引き上げる原動力になるとともに、13秒0台に入っている若い選手たちの力を引き上げるための戦いにもなるはずだ。

著者プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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