箱根駅伝総合優勝へ――國學院大・平林清澄「勝ったことがないので、勝つビジョンを共有しています」 (2ページ目)
【優勝しないと歴史に残らないし、覚えてもらえない】
来年1月の箱根路に向けて機運が高まるなか、10月14日に6人で走る出雲駅伝、11月3日には8人で襷をつなぐ全日本大学駅伝も控えている。出走人数、距離を含めて、10区間で競う箱根とレースの性質は異なってくるが、学生三大駅伝に臨むモチベーションは高い。
「出雲は三大駅伝の初手。流れを決める重要な大会になりますし、全日本は箱根につなげていくためにも優勝したいです。そのふたつの駅伝をおろそかにするつもりはありません。箱根を取れる力があれば、出雲も全日本も勝てると思うんです。ただ、もしも10月、11月でタイトルを取れなくても、箱根で勝てば、この1年のすべてをひっくり返せると思っています。それくらいのインパクトがありますから」
世間の記憶に刻まれるのは、何をおいても箱根駅伝の総合優勝。ちょうど1年前の夏である。妙高高原で夏合宿に励んでいるときだった。偶然、通りかかった観光客の一人に話しかけられたことは、忘れもしない。
「『どこの大学の陸上部なの?』と聞かれたので、『國學院大学です』と答えると、ピンときていないようでした。あまり認知されていないんだな、としみじみ思いました。たとえ、僕らが箱根で総合4位(99回大会)になっても、知らない人は知らない。そのシーズンは出雲で2位、全日本でも2位でしたが、きっとその結果をいまも覚えているのは一部の駅伝ファンだけなのかなって。やっぱり、優勝しないと歴史に残らないし、覚えてもらえませんよね」
1月3日の大手町に先頭で帰ってくるアンカーを迎え、チーム全員で歓喜の輪をつくることを想像するだけで、思いがこみ上げてくる。平林ひとりの願望ではない。誰もいない広い寮の食堂をぐるりと見渡せば、多くの顔が浮かんでくる。前田康弘監督、同期の仲間と後輩、選手からマネジャー、主務となったチームスタッフたち。國學院大に関わる人たちが、何よりも欲しているタイトルなのだ。
「みんなの夢なので。全員で成し遂げたい。駅伝で活躍し、陸上選手としてのキャリアにつなげたいという個人的な思いもありますが、それ以上に箱根駅伝優勝への思いは強いです。チームで勝ちたいし、勝たせたい。その気持ちのほうは大きいかな。このワクワクに勝るものはないと思います」
ロードの襷リレーは、平林にとって昔も今も変わらず特別。トラック出身の陸上選手ではなく、「僕は駅伝出身なので」といたずらっぽく笑う。何かに取り憑かれているほど熱を上げてきたという。世界の舞台を視野に入れ、本格的にマラソンに取り組み始めたが、駅伝の魅力を再確認した。
「区間を走るのは一人ですが、個人のレースではないんですよね。全員のレース。駅伝は心でつなぐものだと思います」
大きな夢を追うラストシーズンは、まもなく始まる。堂々と主役の座を狙うことを宣言する。
「フレッシュグリーン(青山学院大)にも、藤色(駒澤大)にも負けません。今年度は『赤紫』がいきます」
最後にニヤリと笑ったキャプテンの顔は、自信に満ちていた。
【Profile】平林清澄(ひらばやし・きよと)/2002年12月4日生まれ、福井県出身。武生第五中(福井)→美方高(福井)→國學院大。大学1年時から出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝の学生三大駅伝すベてに出場中。昨シーズンは全日本7区で自身初の区間賞を獲得、箱根では2年連続でエース区間の2区を任され区間3位の走りで8人抜きを果たし、チームの5年連続シード権獲得に貢献した。マラソン初挑戦となった今年2月の大阪マラソンでは、2時間06分18秒の初マラソン日本最高記録、日本人学生記録をマークして優勝を果たした。マラソン以外の主な自己ベストは5000m13分55秒30(2021年)、10000m27分55秒15(2023年)、ハーフマラソン1時間01分23秒(2024年)。
著者プロフィール
杉園昌之 (すぎぞの・まさゆき)
1977年生まれ。サッカー専門誌の編集記者を経て、通信社の運動記者としてサッカー、陸上競技、ボクシング、野球、ラグビーなど多くの競技を取材した。現在はジャンルを問わずにフリーランスで活動。
2 / 2