大迫傑、渡辺康幸の早稲田大学記録を塗り変えた新エース・山口智規の決意「個人では日本選手権入賞、三大駅伝では佐藤君(駒大)の好きにはさせないぞ」 (2ページ目)
【エースの自覚と海外レースで得たもの】
地味な取り組みを大切にすることでタフさを身につけてきた山口この記事に関連する写真を見る――以前はタフさに課題があると話していたことがありました。箱根駅伝2区、クロカンとタフなレースで結果を残しました。2月のニューヨークシティ・ハーフマラソンもタフなコースだったとお聞きしました(結果は1時間04分36秒で日本勢トップの10位)。課題克服に手応えを感じているのではないでしょうか。
山口 そうですね。地道な練習に積極的に取り組むようになり、安定感が出てきました。それに、客観的に自分を見ることがうまくなってきて、過信しなくなったので、レースでうまくいっているのかなと思います。
――これまでは、先輩の伊藤大志選手、石塚陽士選手と三枚看板という見られ方をすることが多かったと思います。それでも"自分がエースになる"という思いは強かったのでしょうか。
山口 そうですね。(ふたりには)練習では負けないんですけど、レースではそんなに大差ない結果がずっと続いていたので、トラックシーズンは悔しかったです。
駅伝シーズンに入って、出雲駅伝ではエースが勝負できないようなチーム状況だったので、そこで"自分がしっかりやらないとな"っていう意識が芽生えました。
それと、プラハでのタデッセ選手との出会いがあって(※)、すごく意識が変わったなと思います。
※クラウドファンディングで集まった資金をもとに、昨年9月にプラハ遠征を行い、2021年のU20世界選手権3000mで金メダル、5000mで銀メダルを獲得したエチオピアのタデッセ・ウォルク選手と交流を持った。
今年の世界クロカンでも彼に会って、覚えていてくれてうれしかったですし、いろいろ話をしました。「(5000m、1万の世界記録保持者の)チェプテゲイがいるよ」って言ったら「ノープロブレム」って言っていました。タデッセ選手は12位でしたが(山口は66位)、すごいところにいるんだなと思いました。
――世界クロカンではチェプテゲイ選手は6位でしたが、トラックの世界記録保持者の印象は?
山口 いや、もう背中も見えなかったので、すごく悔しいです。というか、もったいないことをしたなと思います。その時は自信がなくなりましたけど、ああいう世界で勝負しないといけない、ちゃんと考えながら練習に取り組まないといけないとすごく思いました。
――この1年で、香港、プラハ、ニューヨーク、そして、セルビアでの世界クロカンと、海外レースに4試合も出ています。
山口 先を見据えて取り組むうえで、海外レースにどんどん慣れてきて、自分のキャリアのなかで貴重な経験になっています。その一方で、世界において日本人の立ち位置が明確にわかり、現実を見せられている感覚でした。特に世界クロカンはまったく歯が立たず、"悔しい"よりも"悲しい"という感情が大きかったです。
――世界クロカンの時の調子自体はどうでしたか?
山口 3月にコロナにかかり、その後に膝を痛めてしまい、練習が全然できていませんでした。準備ができていなかったとはいえ、それでも、世界との差はすごく感じました。トラックレースだったら2周回もの差をつけられているような結果でしたから。
世界クロカンは、弱気ですけど、とりあえず日本人のなかで3番と31分切りという目標でした。一応は達成したんですが、先頭を見ちゃうと......。
――とはいえ、初めての日本代表がシニアの大会でした。日の丸をつけたことで、ご自身のなかで目標、意識に変化はあったのでしょうか。
山口 そうですね。日本選手権クロカンで勝って、やっと日本選手権レベルの大会で勝負できる実感が出てきました。今までは口だけで「2025年の東京世界選手権を目指す」と言っていたんですけど、その道筋がやっと明確になってきたなって思います。
――一方で、世界クロカン等を経験して、課題に感じた部分、強化していきたい部分はどんなところでしょうか?
山口 ハーフマラソンとクロカンに出て、距離が長いほうがまだ差は小さいなと思いました。まずは1500mや5000mの強化をしっかりしないと将来的に勝負できない。世界選手権を考えたら、10000mが一番近いのかなって思うんですけど、強化すべきは1500mから5000mの走力だと思っています。5月3日の日本選手権10000mが終わったら、来年を見据えて、そういったところをやり直してもいいのかなと思います。
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