「トラックの格闘技」で日本人は勝てない。クレイアーロンは定説を覆せるか (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 中村博之●撮影 photo by Nakamura Hiroyuki

 その後、2009年に横田真人が1分46秒16の日本記録を樹立。2012年には五輪参加標準記録を突破して、同種目44年ぶりのロンドン五輪に出場を果たしたが、結果は予選敗退。

 さらに川元奨(スズキアスリートクラブ)が日本記録を1分45秒75まで伸ばし、16年リオデジャネイロ五輪に出場した。結果は予選敗退で、その後は世界選手権に出場できず、日本男子800mの勢いは止まりかけていた。

 そこに希望の光として現れたのが、クレイアーロンだ。高校3年生で出場した2019年6月の日本選手権では、日本U20記録を更新する1分46秒59で優勝を飾った。

 日本選手権出場後の8月にはスペインで、さらに今年2月にオーストラリアの大会を経験したクレイアーロンは「日本では自分の(やりたい)レースができるのですが、海外だとそれができず、自分のレベルではまだ(世界と)戦えていないと自覚しています」と言う。

 国内では世界を経験した選手が少ないため、"トラックの格闘技"としてのレース経験を十分に積むことができない。この現状について、2009年に日本記録を更新し、ロンドン五輪出場後にアメリカへ拠点を移したこともある横田氏は自身の経験を踏まえてこのように話す。

「日本国内のレースなら強い選手はいい位置を取れます。しかし、そこでちょっとギアを上げていい位置を取れたとしても、そのあとに余裕がない。その、ほんのちょっとした差(余裕の有無)が大きいんです。

 一方、海外のレースでは、『ここで一歩でも無理をすると、後半が持たないのではないか......』と躊躇したところに海外の選手がグイっと入ってくるので、自分の位置がうしろに下がってしまう。そういうことを、私はずっと経験してきました。日本だと手や肘が出ることはあまりないのですが、海外の選手は結構どん欲に位置を取りに来る。それに、ペースアップのタイミング自体も日本のレースとは違います。800mという競技は、ひとつのミスで取り返しがつかなくなる種目なんです。そういうことは、実際に肌で感じないとわからないですね」

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