最後の箱根で東海大・館澤亨次が魂の走り。主将を勇気づけた黄金世代の絆 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Matsuo/AFLO SPORT

 そして、下りを終えるラスト5キロ地点で足に異変を感じた。足の裏に焼けるような痛みを感じたのだ。

「絶対になんかおかしくなっていると思ったんですけど、見なきゃ大丈夫だと。でも、終わってから見ると、かかとにすごく大きな血豆ができていて。もう足がつけないぐらい痛かったです」

 激痛に耐え、山を下った疲労感いっぱいの館澤を覚醒させたのが、両角監督の声だった。

「館澤、おまえすごいぞ! 57分30秒だせるぞ」

 その頃、時計を気にしていなかった館澤は「そんなわけない」と思ったが、その檄がムチとなり、ギアを落とすことなく最後まで走ることができた。

 そしてもうひとつ、館澤を勇気づけたのがチームメイトだった。ラスト1キロ手前のところに、往路を走ったメンバーと關颯人ら4年生の仲間が駆けつけ、応援してくれたのだ。

「一番きついところでみんなが来てくれて......。これは頑張らなきゃと思いましたし、その応援が最後の粘りにつながったと思います」

 館澤は体全体をフルに使った走りで駆け抜け、7区の松崎咲人(1年)に襷を渡すと、その場で倒れ伏した。何もできない、何も考えられないほど、館澤の体のなかのエネルギーは空っぽだった。この館澤の渾身の走りが、松崎や8区の小松陽平(4年)らに勇気を与えた。

「春先は1500mで飯澤(千翔/1年)に負けて、キャプテンとしての意地を見せられないシーズンでしたし、ケガをしてからは箱根まで何もできなかった。最後の最後で、主将としての意地を見せられたかなと思います」

 その走りに、両角監督は心を揺さぶられたという。

「館澤は、言わばぶっつけ本番でしたし、タイムも58分30秒ぐらいを想定していたんですが、それよりも大幅によかった。さすが日本選手権で2回勝っている選手だな、さすが館澤だなって思いました」

 今回の箱根駅伝の敗因の一端として、両角監督は「爆発力に欠けた」と話していたが、東海大で唯一、爆発した走りを見せたのが館澤だった。区間新記録となる57分17秒という驚異的なタイムで流れをつくった館澤に、運営管理車に乗る両角監督から「ありがとう!」の言葉が飛んだ。

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