「勝つ、勝つ」。マラソン井上大仁は自分を追い込んで有言実行の金 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 奥井隆史●写真 photo by Okui Takashi

 37km付近からのエルアバシの仕掛けで、2人の勝負になった後は、井上も積極的に仕掛けた。

「30kmを過ぎてからの仕掛けは、細かいところまで数えれば何十回になりますね。2人になってからは行ったり行かれたりで、向こうが蛇行して、こっちもダッシュしたりと、もう泥試合でした。いくら仕掛けても離れてくれなかったので、かなり強い選手でした」(井上)

 井上がレース中に自分からなかなか動けなかったのは、エルアバシやアブディ・アブドらバーレーン勢の存在があった。スタートリストにはマラソンのエントリータイムも記載されていなかっただけに、不気味さを感じていた。前回の仁川大会で優勝したマハブーブは、マラソンは初レースで、それ以前はハーフマラソンさえ走っていなかった選手だった。そんな記憶が頭の中をよぎっていた。

 エルアバシは、レース中盤では集団の後ろに下がるなど、安定感を欠く走りをしていたが、前回の仁川大会では1万mで大迫傑(ナイキオレゴンプロジェクト)に勝って優勝した選手。バイオグラフィーを調べると、その後1万mの自己ベストを27分25秒02に伸ばし、マラソンは2017年のリスボンマラソンで2時間10分57秒の2位になっていた。最後の直線での競り合いを見ても、コースの内側を突いての接触がなければ、どうなっていたかわからない侮れない相手だった。

 井上は、そんな相手に勝利した意味をこう話す。

「1回勝っただけでは自分の勝ちパターンとはいえないけど、ひとつの引き出しができたということは、来年のMGC(マラソングランドチャンピオンシップレース)や東京五輪へ向けてプラスになってくると思います。すごくうれしかったですね。ひとりでは勝てなかったと思います。今回は日本代表できているし、沿道でもMHPSの赤いタオルをもって応援してくれている人たちがたくさんいたので、それがすごく力になりました」

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