【東海大・駅伝戦記】10年ぶりの出雲制覇。1区・阪口で勝利が見えた (4ページ目)

  • 佐藤 俊●文・写真 text by Sato Shun  photo by Kyodo News


 苦しかったが首位で通過し、3区の松尾に襷(たすき)を託した。

 松尾は3区を走る前、両角監督にこう指示を受けたという。

「区間賞は望まない。先頭でもらったら、しっかり先頭で鬼塚に渡すこと。もし抜かれても先頭が見える位置で鬼塚につなぐように」

 松尾は自分のペースを心がけて走った。向かい風が強かったが、そこで無理して離そうとはしなかった。3.5km辺りで一時、青学大に6秒差まで縮められたが、それでも慌てなかった。下りでペースを上げて、抜かれてたまるかという意地を見せたのだ。

 残り600m、青学大と東洋大が松尾の背後について本格的に抜きにかかった。

「後ろの足音がどんどん大きくなって、ヤバいなって思いましたね。正直、抜かれていく時のペースが速かったんで、その後なかなか追いつけず、それでも先頭が見える範囲で襷を渡す最低限の役割を果たそうと、『最低限、最低限』と言いながら走りました」

 青学大と東洋大の姿を必死に追った。中継点では首位の東洋大、2位の青学大に5秒差だった。映像を見ていた両角監督は、少しほっとしたという。

「5秒差はギリギリでした。10秒差になると鬼塚がいっぱいいっぱいで行かないといけない距離が長くなる。最後は松尾の気持ちを感じました」

 4区の鬼塚が「ラスト! 松尾」と叫んだ。

 松尾は握りしめた襷を鬼塚に渡し、「頼む」とささやいた。

(つづく)

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