【陸上】オスカー・ピストリウス「自分を取り戻した、ロンドン最後の夜」 

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • 越智貴雄●写真 photo by Ochi Takao

オリンピック、パラリンピック両大会に出場を果たしたオスカー・ピストリウス選手オリンピック、パラリンピック両大会に出場を果たしたオスカー・ピストリウス選手 12日間の全日程を終え、9日に閉幕したロンドン・パラリンピック。その中心にいたのは南アフリカのオスカー・ピストリウスだと言っても、異論をはさむ人はそう多くはないだろう。約1カ月前のロンドンで、史上初の義足ランナーとしてオリンピックデビューを飾った彼はパラリンピックでも、よくも悪くも注目を浴び続けた。

 開幕前日、異例の記者会見を開いたピストリウスは、「北京で獲った3冠(100m、200m、400m)を守り、初出場となる4x100mリレーでもアメリカのもつ世界記録を更新して金メダルを獲りたい」と抱負を述べた。

 初戦は大会4日目の200m予選だった。圧巻の走りを見せ、たたき出した21秒30というタイムは、世界新記録。「パラリンピックでは敵なしか」と多くの人に印象づけた。

 波乱は突如、予想外の形で起こった。翌日行なわれた200mの決勝で、ラスト80mまで後続を引き離していたピストリウスだったが、後方から驚異的な伸びで追いついてきたブラジルの新星、アラン・オリビエラにフィニッシュ目前でかわされ、2位。3冠連覇の夢が1種目目で崩れるという波乱に場内は騒然となった。

 だが、本当の波乱はこのあとだった。レース直後のメディアによるインビューで、「オリビエラ選手の義足は長すぎるのではないか」と、勝者の不正を疑う発言をしたのだ。理論上、義足が長いほうがより大きな反発力が得られ、有利だと言われているためだ。

 ピストリウスの発言に対し、国際パラリンピック委員会(IPC)はすぐさま、「出場選手が使う用具については事前にすべてルールに照らしてチェック済み」と発表。疑問を却下された形のピストリウスは、「オリビエラ選手の義足についてのコメントは出すべきタイミングを間違えた。申し訳ない」と謝罪した。

 IPCは、大会終了後にピストリウスの言い分を聞く機会を設けることを約束し、一応の収束を見たが、「不適切な発言によって、彼は"真の敗者"になってしまった」と一部のファンを嘆かせた。

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