10m先の5円玉の穴の真ん中を撃ち抜く感じ。パラ射撃水田光夏「試合でドキドキしたことがない」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Kyodo News

 パラ射撃は障害によってクラス分けされているが、水田は両腕、体幹と両下肢、または両腕のみに運動障害がある射撃選手のSH2クラス。10m先にある約40ミリの小さな的の黒点(30.5ミリ)にある中心(直径0.5ミリ)を狙う。ど真ん中に当たれば満点の10.9点、中心から0.25ミリずれるごとに0.1点減点されていく。60分間で60発を撃ち、的に当てた合計点を争う競技で、最高点は654点(10.9X60 )になる。

 だが、この的の中心が驚くほど小さい。

「10m先に5円玉をぶら下げて、穴のど真ん中を撃ち抜くとちょうど満点になります」

 水田は笑顔で、そう語るが、5円玉を手にすると想像以上に難しいことがわかる。いったい、どうやってど真ん中を撃ち抜くのだろうか。

「サイトと呼んでいる照準器があるんですが、自分の側にリヤサイト、銃の先端にフロントサイトをつけています。リヤサイトを覗くと円になっていて、フロントサイトの円、黒い的の円と3つを重ねて同心円になるように見ています。リヤサイトを覗いていると0.5ミリの中心は見えないんですけど、黒点を見て、3つの円が重なるところがだいたいど真ん中だろうなと予想して撃ちます」

 SH2クラスの水田は、射撃台の上に支持スタンドで支えられた銃で的を狙う。射撃には、4つの大事な要素があるという。

「ひとつは、『据銃』で銃を構えたとき、脱力した状態で、動かず安定した姿勢を作ること。次に『照準』で、ライフルに付いているサイト(照準器)をのぞいたとき、的の中心に銃が向いているかどうか。次が『撃発』で、銃が動かないように丁寧にゆっくりと引くようにします。最後の『フォロースルー』は、弾が的に当たるまでゼロコンマ数秒の時間があるので、動かずに止まること。この4つの要素を少しずつレベルアップさせていくことが点数に繋がっていきます」

 4つの要素の中で水田が特に重視しているのが据銃と撃発だという。据銃はできるだけ銃を動かさないようにすることが求められるわけだが、どういうところがポイントになるのだろうか。

「私は、体に余計な力を入れないことをすごく意識しています。力が入ったまま撃つと体の細かいブレが銃に伝わって動いてしまいます。力を入れないとのと同時に呼吸や心拍にもすごく気を使っています。心拍のドキドキも銃に伝わる感じがするので......。もちろんすべてを動かさないような状態で撃つのは難しいですが、できるだけそういう状態に近づけて撃っています」

 静を求められるのは、銃を構える時だけではない。引き金を引く動作にも静を求められ、さらに繊細さと丁寧さが求められる。

「引き金を引く動作は、すごく大事ですね。ゆっくりと丁寧に、引いたかどうかわからないぐらいがベストだと言われています。いいポジションで構えていても力を入れて引いてしまうと、その反動で銃が揺れてしまうので」

 撃発の重要性はわかるが、水田が引き金を引く左手の指先は麻痺で感覚がない状態だ。その状態の指でどうやって丁寧にゆっくりと引き金を引くのだろうか。

「そこは、射撃を始めた時から苦労しました。不安なく撃てるようになるためには練習しかなかったです。実際に銃を構えてサイトを見ると、自分の指先がどこにあるのか、どんな動きをしているのかわからないんです。そこで顔の反対側に鏡を置いて、今、引き金のどの部分に指を置いているのか、どのくらい動かせば引き金を引けるか、というのを1年半ぐらい練習して引き金を引く感覚を覚えるようにしました」

 今は、指先だけではなく、手全体で動きを感じられるようになり、よりゆっくり丁寧に引き金を引けるようになった。

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