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「桐生祥秀選手に見に来てほしい?」の質問に「まだダメ」 競輪デビューする「消えた天才」日吉克実の秘めた決意とは (4ページ目)

  • text by Sportiva
  • 高橋学●撮影 photo by Takahashi Manabu

【桐生の前で完全優勝したい】

 陸上短距離のレースから身を引いて、今年で5年目になる。この間の紆余曲折を経て、日吉の心は大きく変化した。

「これまで桐生に勝ったとか、中学新記録を持っているとか、どんどん期待をかけられていて、自分はそれを背負いきれなかったし、背負いたくなかった。でも養成所の生活のなかで、それを背負わなくてもいいんだなと。それを引き合いに出して、自分のことに注目してくれる人がいるのは、幸せだなと思えました」

 今は肩の荷が下りただけではなく、栄光も挫折も経験した陸上人生のすべてが彼の誇りだ。そんな日吉に「ルーキーシリーズで桐生選手に見に来てほしいか」と尋ねたところ、「まだダメです」と即答。「7月の本デビューがいいです」とキッパリ答えた。それまでに練習を積んで、桐生に恥ずかしくない走りを見せるためだろう。

「7月の僕の本デビューが、桐生が来られる範囲であれば、誘ってみたいですね。その時には完全優勝したいなと思います」

 桐生との出会いから13年。日吉の心のなかには桐生がずっと存在し、時にはそれが重くのしかかった時期もあった。しかし苦難を乗り越え、競輪という新たなスタートラインに立った今、桐生の存在は、日吉の走る原動力になっている。彼の走る先にはどんな景色が見えているのだろうか。

 中学3年の夏、一心不乱にゴールに突っ込んだその姿を、この競輪でも見てみたい。


【Profile】
日吉克実(ひよし・かつみ)
1995年5月8日生まれ、静岡県出身。小学5年から陸上を始め、中学の時にはジュニアオリンピック三連覇を達成。3年時には100m、200mで中学新記録を樹立した。高校・大学でも好成績を残し、大学4年の全日本インカレの4×100mリレーで優勝を果たす。大学卒業後も競技を続けるが、2018年をもって陸上競技を引退した。そして2022年に日本競輪選手養成所に入所し、翌年3月に卒業。2023年4月から競輪選手としてデビューする。

【画像】競輪界のチア「PIST6ダンサーズ」

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