1日8時間練習し、400本を射るアーチェリー山内梓「音は聞こえず、自分の的しか見えない。そこまで集中力を高めてく」 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • 説田浩之●撮影 photo by Setsuda Hiroyuki

【パリ五輪へ向けての課題】

 困った表情を浮かべる山内だが、これからは個人のSNSをうまく利用していきたいという。だが、知名度を爆発的に上げるには、やはり五輪での活躍が一番手っ取り早い。そのために山内は、筋肉をつけ、より安定したフォームで打てるように、さらに進化を目指している。

「東京五輪を経験できたことはすごく大きいですね。そこでどんな状況でもブレずに射てるフォームが必要で、強いメンタルが大事だということが改めてわかりました。試合では風が強くなったり、状況が刻々と変わるなかで、リズムが長くなったり、射ち方が変わるとやっぱり点数が落ちてきます。私は、練習と試合でフォームがあまり変わらないと言われるので、そこを強みにして、練習しているフォームで、平常心でテンポよく射っていきたいですね。あとは、集中力。アーチェリーは横に並んで射つんですが、横の人が射った音につられて射ってしまうことがあるんです。どんな大会でも周囲の音は聞こえず、自分の的しか見えない。そこまで集中力を高めていければ、パリ五輪では世界といい勝負ができるのかなと思います」

 そのために山内は、オフ以外はアーチェリー漬けの日々を送っている。平日は、近大職員として朝9時から昼の休憩1時間を挟んで夜6時まで練習している。月曜日がオフだが、日曜日は試合で、それ以外5日間は学生と一緒に練習場で400本以上、射っている。オフは、気晴らしに洋服などのショッピングに行き、甘いものや辛いものを食べて帰ってくる程度だ。

「すべては、パリ五輪のためです。やっぱり東京五輪でのリベンジをしたいですし、個人で金メダルを獲りたいので」

 パリ五輪に向けて、まずは4月、世界選手権とアジア選手権の代表をかけた大会で結果を出すことが求められる。

もちろん狙いは、優勝である。


PROFILE 
山内梓(やまうち・あずさ)
アーチェリー選手。1998年9月11日生まれ。静岡県出身。高校(浜松商)からアーチェリーをはじめ、高校3年の時にインターハイ(団体)で優勝。近畿大学3年の時にインカレ(個人)で優勝。 2021年、東京五輪に出場。2022年大学卒業後は、近畿大学職員として競技を続けている。

【筆者プロフィール】佐藤 俊(さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在はサッカー、陸上(駅伝)、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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