見延和靖が危機感を抱くフェンシングエペの未来。「今の状態を続けてもパリで勝ててもそこで途絶える」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by SCENTMATIC

「僕たちがエペで結果を出すことは、フェンシングの普及という面でも重要だと思っていました。正直言ってフルーレやサーブルは、攻撃権もあってルールが複雑で初心者にはわかりにくい。でもエペは先に突けば得点になるというシンプルなルールなので一番わかりやすく、初心者も取り組みやすい面があると思います。

 今回の優勝でエペに興味を持ってくれる子供たちも増えるかもしれないけど、現状ではフルーレの指導者は多いが、エペを教えられる指導者が少ないんです。そういうところも徐々に改善していければいいなと思います」

 日本ではフルーレが盛んだ。ルールは複雑だが、動きが説明しやすいこともあり、ある程度の教本的なものはできている。だが「決闘」ともいえるエペは、どんな状態でも先に突けば得点になり、それぞれの選手の個性もあって正解は無数にあるという。さらに心理戦の要素も大きく、互いの間合いの探り合いもシビアだ。

「エペの場合は戦い方も毎年傾向があるんです。ジャンケンにたとえると、グーが強い時代があれば、次はそれに勝つためにパーが強い時代になる。そうなれば『次はチョキが来るよね』という感じで微妙に変化します。いきなりみんな攻めに転向したかと思えば、全然攻めなくなったり、剣をバチバチ叩き出したりとか......。そういうのがエペなんです」

 微妙に変化するその時々の傾向に加え、選手それぞれの個性もストレートに出てくるのがエペ。だからこそ、教本的なものは作り上げにくい。

「正解が多くて多様性があるからこそ教えにくいし、『答えがない』と言われているのだと思います。でも僕はそのなかにもちゃんと答えがあると信じているんです。ただそれに誰も気づいていないだけ。だから僕は、まだ誰もエペの極意にたどり着けていないという仮説を立てているんです。

 どんな体勢になっても先に突けば勝ちですが、突く速度が突かれたほうの反応速度を超えているから対応できないんです。でもそこに行くまでの仕掛け方だったりに、何か答えがあると思うんですね。その誰も知らない何かを求めるために、フェンシングを頑張っているところはあります」

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