2020.12.14

リオ五輪で失格→猛抗議して銅メダル獲得。日本を強豪に押し上げた男

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by PHOTO KISHIMOTO

 荒井は45㎞でトートに突き放され、単独3位で歩いていると、49㎞手前でダンフィーが追いついてきた。しかし、荒井は慌てることはなかった。

「最後まで身体が動いている感覚がありました。途中で谷井さんと森岡さんが(上位集団から)いなくなって日本人は僕ひとりになったけれど、(前年の)世界選手権で谷井さんが3位になっているので、ただでは終われないという気持ちでした。カナダの選手(ダンフィー)に追いつかれた時は(世界選手権で)4位だったことを思い出して『やばい』と思いましたが、今回は負けられないと......。何も仕掛けないで終わるのはもったいないし、先に仕掛ければダメでも諦めがつくと思い、ラスト1㎞でいきました。体も動いたので、そこで勝てるかなと感じました」

 こう話した荒井は、ダンフィーに14秒差をつける3時間41分24秒でゴール。トートに抜かれて2位になったタレントを8秒差まで追い詰めた。

 だが試合後、銅メダルが確定するまでは長かった。荒井がスパートする直前にダンフィーと接触したことについて、カナダチームが「妨害行為だ」と抗議し、一時、審判長が荒井を失格と判定したのだ。

 その接触は、一度抜かれた荒井がダンフィーを抜き返そうとした際に起きた。先に折り返し地点が迫っていたため、荒井が内を突くと、寄せてきたダンフィーの左肘が荒井の上腕部に当たった。少し歩いて荒井が前に出ると、ダンフィーは2、3歩よろけて両手を広げて減速。妨害をアピールするようにも、また、諦めた気持ちの表れとも思える動きを見せた。しかし、何度も映し出されたスロー映像を見る限り、衝撃でのけぞったのは荒井のほう。競歩ではよく見られる接触シーンでしかなかった。

 失格の判定を知らなかった時点で、荒井は「腕振りが大きい競歩は接触がつきものなので......。接触で脇腹が痛くもならなかったので、影響はなかったです」と説明。接触されたという認識だった。