2020.03.05

フェンシング太田雄貴、北京五輪銀メダルの裏にあった「背水の陣」

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AFLO

 先に行なわれた女子フルーレで7位になった菅原智恵子に続き、太田は自分がベスト8に進んだことで、自らの責務を果たせた気がしていた。その余裕が、太田をさらに加速させた。

 準々決勝の相手は、予想どおりヨピッヒ。2回戦でヨピッヒは、フルタイムを戦って10-9で勝利していた。調子がよくない、と太田は見た。過去の対戦成績は5戦5敗で負けてもしょうがない、と割り切ることもできたが、その半面「勝つならこのタイミングしかない」とも思えた。前半で一気に離されるパターンになれば負けるが、そこを8-10くらいに食い止めることができれば、勝てる。

 試合は太田の思惑どおり、競り合いになった。10-10になった時に「勝てると思った」という太田は、14-12と王手をかけた。次のポイントはヨピッヒが取ったが、ここでコーチ席のオレグが「ビデオ、ビデオ」と執拗に叫んだ。太田がビデオ判定を要求すると、ヨピッヒの反則の判定に。イエローカードが2枚になって太田にポイントが与えられ、15-12で勝利が確定した。

 準決勝の相手は04年アテネ五輪銀メダルのベテラン、サルバトーレ・サンツォ(イタリア)。太田にとって初の五輪出場だったアテネの決勝で彼の戦いを見た時、「4年かけてもあのレベルにはなれないな...」と感じたトップ選手だ。