【体操】内村航平「神様がボクに試練を与えてくれた」 (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

 内村はというと、あいかわらずピリッとしない内容が続いていた。予選のような大過失はなく、それぞれの種目も無難にまとめてはいるものの、内村が最もこだわる「ピタリと決める着地」は生まれず......。納得のいかない内村は、終始表情を曇らせていた。

 そして、最後の演技。内村に付きまとっていた『ずれ』は、あん馬で大きなひび割れを起こしたのである。最後の最後、うまく乗り切ったと思った瞬間、内村は終末技で手を滑らせる痛恨のミス。「落下しないで何とか降りるだけ」という大過失を犯し、演技を終えたのだった。

 いつも平然と『完璧すぎる』演技をこなす内村に、いったい何が起こったのか。大会を終えた内村は、当時の心境をこう振り返った。

「(団体決勝のあん馬の)演技をする直前にイギリスがメダル獲得を決めたので、場内は大歓声に包まれていた。最初はその声も気にならなかったけど、最後はそれに惑わされてしまった」

 己の演技に集中しきれていなかったと、反省の言葉を口にした。

 内村のあん馬の得点は13.466点。電光掲示板に表示された総合結果は、中国だけでなく、イギリスとウクライナにも遅れをとる『4位』。場内の大型モニターには、茫然とした表情で宙(ちゅう)を見つめる内村の顔が、延々と映し出されていた。

「4位という数字を見て、何も言えなかったですね......。今まで何をやってきたんだろうと、ずっと考えていました」

 その後、内村の演技でDスコアが正当に評価されていないと主張し、それが認められて2位となった。それでも内村は、複雑な気持ちだったという。最初は4位から2位に上がり、5人で銀メダルを獲れたことに安堵した。だが、落ち着いてくると、金メダルを逃がした悔しさが、心の中にじわじわと広がってきた。

 なぜ、今まで練習でできたことが試合でできなかったのだろう......。内村は自問自答を繰り返した。

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