【月刊・白鵬】モンゴル力士のパイオニア、旭天鵬との『絆』 (2ページ目)

  • 武田葉月●構成 text&photo by Takeda Hazuki

「白鵬、休場か?」
 各メディアでは、そんな見出しが躍っていました。私は、横綱に昇進して、初めての大ピンチを迎えたのです。尊敬する元横綱の大鵬さんからは、「悪いところがあるなら、無理をせずに休場したほうがいいぞ」とアドバイスをいただき、気持ちは揺れました。しかし――。

「横綱として大切なことは何か?」

 これは、常に私が考えていることです。そして今回、私はこう思いました。
「横綱とは、何があっても初日から千秋楽まで土俵に上がり続けるもの。その姿をみなさんに見てもらうことが、横綱の使命なのではないだろうか」と。

 そのためにも、「勝つ」ことに固執するのではなく、もう一度初心に戻ろう。結果は二の次......。そう、自らの胸に刻みました。

 それから、悪夢の連敗を脱した私は、少しずつ自分らしい相撲を取れるようになっていきました。実はこの連敗には、体のある箇所の故障がひとつの原因でもあったのですが、それを言い訳にはできないと思っていました。

 一方で、優勝争いは大関の稀勢の里を筆頭に、平幕の栃煌山らが追う混戦模様となりました。そして13日目、私が"天敵"稀勢の里に勝利すると、彼を3敗にさせたことで、稀勢の里、栃煌山、旭天鵬関の3人が3敗で並び、14日目を終えた時点で、優勝にはほど遠いと思われた4敗の私にもチャンスが巡ってきたのです。

 ただ、私の場合、千秋楽に3人の3敗力士が全員敗れることが前提なので、自力優勝の可能性はありません。展開を見守るしかないと思って、千秋楽の朝を迎えました。すると、お昼前に「琴欧洲、休場」というニュースが飛び込んできたのです。大関の琴欧洲は3敗の栃煌山の対戦相手。戦わずして栃煌山が3敗をキープしたことで、4敗の私の優勝の目はなくなってしまいました。

 その後、旭天鵬関が豪栄道に勝ち、3敗を死守。優勝決定巴戦になる雰囲気が漂っていましたが、結局稀勢の里は把瑠都に敗れ、優勝の行方は旭天鵬関と栃煌山の2人に絞られました。平幕力士同士の優勝決定戦という思わぬ展開に、館内のお客さんたちは興奮状態。自分の相撲を終えた私も、支度部屋でこの一番を見守りました。

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