村元哉中・高橋大輔「かなだい」初の振り付け曲は「けっこうレア」狂おしい臨場感に大歓声 (2ページ目)
【自分を極限まで追い込む、表現者の矜持】
2022年12月、全日本選手権でアイスダンス王者になったあと、彼らに聞いたことがあった。
ーーあれだけ堂々とした演技で全日本選手権優勝とは、カップルを結成した2020年1月の(アイスショーの)『アイスエクスプロージョン』では想像できませんでした。タイムマシンで当時の自分に会えるとしたら、なんて声をかけますか?
その問いに、高橋はこう答えていた。
「『覚悟しとけよ』ですかね(笑)。アイスダンスは難しい、本当に難しい。あの時はまだ始めてなかったんで、アイスダンスが大変だと思っていても、実際にはわかっていなかったわけで、シングルとここまで違うものかって」
彼はそう言って謙遜していたが、着実に山を乗り越えてきた。その献身こそ、表現者の矜持と言えるだろう。
<自分のスケートにどれだけの価値があるか>
その問いと、彼は日々逃げずに格闘しているようにも映る。
昨年5月に現役引退を発表したあとも、その信条は変わっていない。たとえば今年2月、高橋がプロデュースした『滑走屋』は、まさに新感覚で革新的だった。アイスショーの常識を覆し、一人ひとりが物語を担いながら、疾走感はノンストップ。氷上のシアター作品のようだった。
裏返せば、先駆的な作品を仕上げるのは過酷な作業だったはずだ。
「(何かをつくる)そういう意味で追い込まれるのは嫌いじゃないです。みんなでつくり上げるのは好きだし。しんどいですけど、やったあとにしんどかった分、絆も深まりますね」
高橋はそう語っていたが、『滑走屋』が終わったあとの彼は、すべての力を使いきっていた。
直後のインタビューでその頬がこけ、目もくぼんでいた。寝食も犠牲にしてきたのだろう。周りから「極限まで自分を追い込めるのが才能」と言われるが、想像以上だろう。
一方、「撮影をお願いします」という声がかかった途端、生気を取り戻す姿は瞠目に値した。顔全体が明るく輝き、目に力が宿り、指先にまで血が巡ったのだ。
高橋はそうした日々を重ねることで、また次の表現にたどり着くのだろう。
ーー好きなミュージカル作品は?
今回の『プリンスアイスワールド』の公演後、そう質問を受けた高橋は彼らしく答えている。
「僕はミュージカル好きなので、いっぱいあって決めきれないな。どうしよう......でも『ロミオとジュリエット』のフランス版は楽曲もすべて好きで。いつかちょっとでも出てみたいなって。どのミュージカルも好きで、ひとつに決められないですけど......あ、でも『ロミオとジュリエット』で(笑)」
あるいは、その舞台に立つ日も訪れるかもしれない。彼はシングル時代も、現役復帰後も、アイスダンス転向後も、そして表現者としても、イメージしてきたものを必ず実現してきた。今も舞台に立つたび、変身を遂げているのだ。
横浜公演は、ゴールデンウィーク中に6日間12公演が予定されている。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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