高まる芸術性。ザギトワはファイナルで見る人を幸せにする

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 うららかに音が流れ、それは現れる端から消えるはずなのに、彼女はそれを見事に掬い取る――。

NHK杯のフリーでシーズンベストを出した、アリーナ・ザギトワNHK杯のフリーでシーズンベストを出した、アリーナ・ザギトワ NHK杯、アリーナ・ザギトワはフリースケーティングで完璧に近いスケートを見せた。シーズンベストの151.15点。ショートプログラムでの失敗を挽回するのに十分な演技だった。

「クリーンな演技で、スケートを楽しみたい」

 そう語るザギトワの真骨頂と言えるような"作品"だった。

 流れる音と一体になっていた。深くエッジが入り、優雅さを伝える。終盤、リズムが激しくなったとき、彼女は右足をぐるぐると風車のように旋回させた。最後のポーズ、ヒジを引き上げ、視線を上げ、胸を張る。そこで喝采を浴びると、悲鳴に似た歓声があがった。

 キス&クライ、ザギトワは達成感よりも安堵の表情だったか。2018年平昌五輪金メダル、2019年世界選手権女王の意地を見せた。演技構成点は73.84点でトップだった。

 しかしこの日、ザギトワは同じロシアのアリョーナ・コストルナヤにも、日本の紀平梨花にも、敗れた。

 12月5日から、イタリア・トリノで開幕するグランプリファイナル。女王に活路はあるのか?

 ザギトワは、「ハイスコアを望める大技がない」と言われる。コストルナヤ、紀平にはトリプルアクセル、アレクサンドラ・トゥルソワ、アンナ・シェルバコワには4回転ジャンプがある。しかし彼女は、試合を左右するほどの大技を持っていない。

 しかし大技もなく、これだけの点数をたたき出せるほうが驚きだろう。ザギトワのスケーティングの完成度は、際立って高い。芸術性こそ、彼女の大技だ。

 その土台は、練習にあると言われる。

 平昌五輪で金メダルを取った時、本命は当時、2年連続世界選手権で優勝していたエフゲニア・メドベデワだった。当時15歳でシニアデビューのシーズンだったザギトワは、メドベデワを尊敬し、輝かしいほどの強さを目にしていた。

 しかしザギトワは五輪までの2年間、日々、1分1秒も怠らず、スケートに取り組んできた「練習」を信じられたという。

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