羽生結弦の全日本4連覇が示す「勝利と記録」を両立させる難しさ (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●写真 photo by Noto Sunao

 たとえば、陸上男子100mの世界記録(9秒58)保持者であるウサイン・ボルト(ジャマイカ)でさえ、100mを10秒台で走るレースもある。自身の体の状態やメンタルの高揚感に加え、気象条件も結果に影響する。そんな中では当然、無理をしないで勝利だけを狙っていく試合もある。

 それでも勝ち続けるのが王者なのだが、勝利とともに記録まで狙うには、体だけではなく精神にも大きな負担を強いる。それを続けていれば心も身体も疲弊してしまう。

 羽生のNHK杯とファイナルでの300点超えは、陸上の100mにたとえてみれば、9秒5台の世界記録を連発したようなもの。それが体と心に与えた負荷は、周囲には想像できないほどの大きさだったはずだ。だからこそ、今回の全日本選手権でノーミスが途絶えたのは、彼が心と体をもう一回リセットして次へ進むためにも、必要なことだったといえる。この結果に、観ている側としてホッとする気持ちもあった。

 SP終了後、羽生は「緊張感よりも逆にすごくリラックスして、自分の中ではいい状態だと思っていました」と話していた。

 そして、その理由に「環境要因」を挙げた。周囲にいるのは昔から知っている同世代の選手や先輩、後輩たち。海外の大会とは違い、聞こえてくるのはすべて日本語ばかりでホッとしてしまうのは当然だ。そういう状況では、どう頑張っても「リラックスしてしまう気持ちが先行してしまう」と羽生は言う。

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