羽生結弦が新エキシビション『天と地のレクイエム』に込めた思い (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao

 羽生は「歌詞がないピアノの曲なので、表現するのが難しい」とも話した。また、そんな曲であるがゆえに、受け取る側が、自身の思いとは違ったものになることもあるとも考えている。

「振り付けの宮本賢二先生とは『こういうイメージでやろう』というのは固まっています。でも、『これを受け取ってほしい』というのは考えないようにしようと思っています。アイスショーというのはナマ物ですし、そこで作りあげるイメージはその時限りのものでしかない。だから、観ている皆さんには、その時感じたことや、その時に思い浮かんだ風景とか、心の中に浮かんできた思いなどを大切にしていただいて、それぞれの記憶に少しでも残してもらえれば、と思っています」

 東日本大震災で被災した体験は、それを経験した個人のもの。その感情は他人に押しつけるようなものではない。自分の思いを提示するだけという思いがあるのだろう。

 緊張感に満ちた3分27秒の滑りで、羽生は、拍手や歓声、感嘆のため息をつくいとまもないほど濃密な時間を作りあげた。

 最後に、氷上に2列の花がポッと映し出される。羽生は、燃えさかっていた自分の気持ちを心の中で静かに鎮めて演技を終えた。

 東日本大震災への思いを込めたプログラム。羽生はそれを神戸で演じたことに、大きな意義を感じていた。神戸は、1995年の阪神・淡路大震災から復興を果たした地だからだ。

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