羽生結弦と町田樹、これから始まるライバル物語 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 だが、ミスをした後でも羽生は冷静だった。

「4回転でミスをしたあと、スピンを回りながらこの後の要素でしっかりとGOE(出来ばえ点)を取ればSPで90点台に乗せられると思っていました」と言うように、その後の演技をしっかりこなし、スピンとステップはすべてレベル4。ジャンプでも加点されて91・24点を獲得した。

 今大会のSPでトップに立ったのは「ソチ五輪のあと、反省点が多すぎたので、それをひとつひとつ、どうやったら改善できるだろうと考えていました」と、五輪後すぐに練習を再開し「成長の手応えを感じていた」と言う町田樹だった。

 町田は、冒頭の4回転トーループと3回転トーループの連続ジャンプを含め、すべてを完璧に行ない世界歴代3位の98・21点を獲得。町田に続く2位には、SPで4回転サルコウをきれいに決めたハビエル・フェルナンデス(スペイン)が入った。

 だが、羽生にしてみれば、SPで3位になったとはいえ、町田との6・97点差はフリーで逆転可能な射程圏内。4回転トーループを失敗しても動揺することなく、キッチリと90点台に乗せたのは、彼の精神力の強さであり、五輪王者としてのプライドだったともいえる。

史上二人目となるGPファイナル、五輪、世界選手権の3冠を達成した羽生結弦史上二人目となるGPファイナル、五輪、世界選手権の3冠を達成した羽生結弦 それでも、フリーも楽な戦いではなかった。羽生の二人前に滑った町田が、自己ベストの184・05点を出したのだ。大西勝敬コーチが「樹はソチ五輪から帰って来て一気に変わってきたというか、脱皮でもした感じで成長してきた」と話すように、町田は最初の4回転トーループで着氷が乱れたものの、次の4回転に2回転トーループを付けてカバー。その後もミスの少ない演技でまとめ、総合得点で世界歴代3位となる高得点をマークした。

 しかし、羽生に動揺はなかった。

「ソチ五輪では3点差を追いかけられる展開で、気持ちのコントロールがうまくできなかったですが、今回は7点差(で自分が追いかける展開)。僕はフリーで追いかける方が得意なので、少し緊張はしたけど、いい感じで臨めました」

 こう話す羽生のフリー冒頭の4回転サルコウは、「跳んだ瞬間、ちょっとヤバいと思ったし、転倒すると思った」という。だが、着氷で何とか踏ん張って転倒を回避。「五輪王者としてここで負ける訳にはいけない」という意地を見せたジャンプだった。そして、続く4回転トーループをきれいに決めると、その後の要素も3回転フリップがロングエッジになった以外ミスはなし。終盤はスピードが落ちて、いつものようなキレや粘りが見られなかったものの、意地と気迫で耐えきった羽生は、世界選手権初優勝を決めた。

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