フィギュアNHK杯優勝。五輪に向けスイッチが入った髙橋大輔 (3ページ目)

  • 辛仁夏●文text by Synn Yinha
  • 岸本勉●写真 photo by Kishimoto Tsutomu

「今日のフリーは、演技よりも、次へ次へという感じでジャンプのことばかり考えていた。4回転もまだ2本続けて跳べていないので、次の試合に向けて練習を続けたい。オリンピックに向けて、この大会をいいスタートにできればいい。シーズンに入る前、平静心でいようとしたことが気の緩みを生んでしまっていたのかも。やはり攻めの気持ちが大事だと思いました。シーズンの最初が悪かったのは、(9月中旬に)靴を替えてタイミングが合うまで時間がかかったり、いろいろありますが、最後は気持ちの問題でしたね」(高橋)

 長年、高橋を指導してきた長光歌子コーチは、「スケートアメリカでは勝負する意識がなかったが、今日は闘争心があったし、強い気持ちでよく2日間を通してくれた。ニコライが上手に彼の闘争心を呼び覚ましてくれた。初めてのトリノ五輪はがむしゃらに、次のバンクーバー五輪はケガ明けで他のことは考えずに取り組めたが、今回のソチ五輪に向けてはきちんとモチベーションをつけられなかった。ここまである程度のものを手に入れてしまい、自分で自分を高めることが難しい中で、ニコライの存在はありがたい味方になっている。とにかくこのNHK杯で彼本来の力を出してくれて安心した」と振り返った。

 それぐらい、3度目の五輪シーズンを戦う舵取りは難しかったようだ。だが今回のNHK杯で優勝を飾り、本来の実力を見せただけに、シーズン序盤の不調の原因だった自信のなさとモチベーションの欠如は払拭できたに違いない。高橋自身は五輪についてこう語る。

「1度目のトリノのときは、五輪がどういったところか分からず、織田くんと代表1枠を取るために争った全日本で力尽きてしまったところがあったし、2度目のバンクーバーのときはケガ明けだったので、いけるかいけないかの不安の中で、気づいたら五輪が来てしまった感じだった。3度目のソチは3年前から五輪を目指すと決めた中で、この時期にもう一回カツを入れられた。ぎりぎりにならないと気持ちが入らない自分に、順調にはいかないなと改めて痛感した。今回の五輪シーズンは、気持ちの面でも身体の面でも(代表争いの)メンバー的にも、一番ハードではないかなと思います。やっと五輪に向かう舞台に立てたので、これからが本当のスタートかなと思います」

 GPファイナルに進出できるかはまだ分からないが、シーズン初戦の敗戦が“良薬”になったことを、このNHK杯で証明できた。日本のエース高橋が、五輪代表選考会の全日本選手権に向けていよいよ全開で動き出しそうだ。

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