フィギュアNHK杯優勝。五輪に向けスイッチが入った髙橋大輔 (2ページ目)

  • 辛仁夏●文text by Synn Yinha
  • 岸本勉●写真 photo by Kishimoto Tsutomu

 失った自信を取り戻したいと宣言していた高橋が一体、どんな演技をしてくるのか。期待と不安があったNHK杯だったが、蓋を開けてみると、ここぞという舞台では力を発揮する高橋らしく、日本のファンをしびれさせるプログラムを披露した。

 ノーミスの出来だったSPは久々に完璧な4回転トーループを見せた。『バイオリンのためのソナチネ』に乗って、音をしっかりと捉えた息を飲むほどの迫力ある演技からは気合も十分に伝わってきた。技術点ではただ一人50点台に乗せるなど、合計95.55点は世界歴代2位の高得点。昨シーズンにパトリック・チャン(カナダ)が出した98.37点に次ぐもので、次代のエース、羽生結弦が記録した日本人最高の95.32点を上回る得点だった。

「久々の会心の演技だった。思い切っていろいろ考えずにできて前向きになれた。シーズン初戦でなかなかいい演技ができなかったので、95点が出たのは正直びっくり。気持ちの面での改善はできたと思う」(高橋)

 続くフリーでも勢いがあった。冒頭の4回転トーループをきれいに着氷させて成功。2本目に予定していた4+2回転の連続ジャンプは3回転トーループになった上にステップアウトで減点され、中盤のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)でも着氷でバランスを崩して手をついた。だが失敗はこの2つのジャンプだけで、『ビートルズメドレー』の5曲それぞれの音楽を全身で受け止めて表情豊かに表現してみせた。今季最高の合計268・31点が出て優勝が決まると、SP後にも見せなかった笑顔をやっと見せて喜んだ。

 フリーの技術点だけは織田信成に7.20点差をつけられて2番手だったが、SPとフリーの演技構成点はいずれも9点台が並ぶ高得点をマークして他を圧倒。課題の4回転も、SP、フリーで計3度挑戦し、2度完璧なジャンプを跳んだことは、今後につながる大きな収穫になったはずだ。また、一戦ごとにプログラムの成熟度も増してきており、大技のジャンプが失敗なく決まってくれば、心に残る素晴らしい"作品"になりそうだ。

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