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佐竹雅昭が語るK-1の原点、ニールセン戦の1ラウンドKO 頭突きには批判も「果たし合いに反則も何もない」 (2ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji

【試合中に「すべての時間が止まった」】

 運命のゴングが鳴る。しかし佐竹は、自分の体の異常に戸惑った。

「気合は入っているのに、緊張で体がうまく動かなかったんですよ。『これは、どうなっちゃうんだ』と焦っている時に、ニールセンの蹴りが金的に入ったんです。それは故意じゃなくて偶然だったと思います。ただ、あの金的への蹴りで『てめぇ、この野郎』と緊張が一気に吹っ飛びました」

 そこで脳裏をよぎったのは、控室でセコンドを務めた中山猛夫師範がささやいた「パチキ(頭突き)だよ」の言葉だった。

「ロープに詰めた時に、ガーンと頭突きが入って。そうしたら、レフェリーのサミー中村さんが間に入って減点1を取られ、『次やったら失格だ』と宣告されました。それでまた緊張してきて、マックスに達してすべての時間が止まりました。僕も、目の前にいるニールセンも止まっているような感覚です。

 大歓声も聞こえなくなって、『極度の緊張はこういうことなんか』と一瞬だけ冷静になった時、ニールセンの顔が目の前にあったんです。僕はこの時、サウスポー構え。『右ストレートを入れたら当たるんじゃないか』と思ってからは、動きがコマ送りのようになりました。右ストレートがゆっくり伸びて、拳にガンという感触があった。直後、ニールセンがカクカクとした動きで倒れていったんです」

 1ラウンド2分07秒。佐竹は右ストレートでニールセンをKOした。佐竹は両手を突き上げ、セコンドが駆け寄り、武道館は大歓声に包まれた。人生をかけた勝負に勝ち、プロ空手家として生きる道を切り開いたのだ。

「空手家人生のなかで『怖い』という思いを抱いた試合はありましたが、あれほどの恐怖、重圧、緊張など、いろんなものを背負った戦いはあれが最初で最後です。戦いながら時間が止まったような感覚に陥ることなんてなかったですし、奇跡の試合だったと思います」

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