藤波辰爾に起こった試合直前の流血事件。アントニオ猪木はあえてドラゴンを殴った (4ページ目)

  • 松岡健治●取材・文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by Yukio Hiraku/AFLO

 藤波の人気は急上昇。しかしそこで、猪木の厳しさを再認識する出来事があった。

「当時は年間で200試合ぐらいありましたから、シリーズが開幕して地方に出ると、どうしても疲れが出る時があるんです。ある時、試合前の練習で選手たちの気合いが入っていないことがあって、それを見た猪木さんが『お前ら全員来い』と怒ったんです。

 自分はその全体練習には参加せずに別の場所で練習していて、猪木さんの号令を聞いて駆けつけました。すると......『お前がしっかりやらないからダメなんだ』と、プッシュアップ(腕立て伏せ)で使う木製の器具で頭を殴られて、流血です(苦笑)。その日はテレビマッチだったんですが、試合前から頭に包帯を巻いてリングに上がったわけですから、お客さんはびっくりしたでしょうね(笑)」

 当時はさすがの藤波も、猪木の"鉄拳"指導に「どうして自分が殴られないといけないのか」という戸惑いがあった。しかし今は、その時の師匠の思いを理解できるという。

「あの頃の僕はジュニアヘビーで注目されていましたから、選手全員を引き締めるために、あえて僕を殴ったんだと思います。そうすれば、他の選手は『藤波があれだけ厳しく指導されたんだから、俺たちは気合をいれないといけない』と思うはずですから。現代では問題になる指導でしょうが、実際に、そこから練習は引き締まりましたね」

 猪木の信念は、「プロレスは、闘いである」。常に師匠の近くで、プロレスに向き合う姿勢を見てきた藤波。デビューからの50年を、あらためてこう振り返る。

「猪木さんの教えがなかったら、絶対にここまで続けてこられなかったと思います。プロレスは闘いですから、僕は今もリングに上がる前に足が震えるんです。そのリングへの恐怖心が、現役であり続けることの礎になっています」

(第2回:飛龍革命と猪木との「ベストバウト」>>)

■藤波辰爾が主宰する「ドラディション」は、『THE NEVER GIVE UP TOUR』と銘打ち、デビュー50周年記念ツアーを今秋からスタートすることを決定。
第一弾・・・10月31日@大阪・南港ATCホール 11月9日@東京・後楽園ホール
詳しくはこちら>>

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る