井上尚弥がパッキャオなみの「世界的スター」になるために必要なもの (2ページ目)

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Reuters/AFLO

 中でも同じアジア人で、軽量級からプロ歴をスタートさせたパンチャーという意味で、井上とパッキャオの共通点を指摘する声は少なくない。

「井上は間違いなくマニーと似た特徴を持っているよ。トラッシュトークを好まず、試合前に大口を叩くわけではない。物静かな男が、ゴングが鳴った瞬間に爆弾のようなパンチを振りかざすんだからね。パッキャオを除けばもっともエキサイティングなアジア出身選手であり、間違いなく日本最高のファイターだ」

 マネージャー、マッチメイカーとして約30年にわたってボクシング界に関わり、現在はパッキャオのマネージャーを務めるショーン・ギボンスはそう述べる。また、過去にパッキャオ戦の解説もこなしてきたマリナッジは次のようにつけ加えた。

「軽量級時代のパッキャオに限定して比較したら、井上のほうが優れたキャリアを過ごしていると思う。パッキャオはフライ級王者として敗戦も味わったが、井上は負けたことはない。ジェイミー・マクドネル(イギリス)、ファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)といった名前のある選手も、早いラウンドで破壊してしまっているわけだからね」

 実際にパッキャオは、ライトフライ級~バンタム級で試合をしていたキャリア序盤に3敗を喫しており、まだ体ができていなかった当時は"無敵"という印象はなかった。1999年には体重超過でWBC世界フライ級王座を剥奪されたうえ、タイ人選手に3回KO負け。無名から叩き上げたパッキャオとエリート街道を走ってきた井上の道程を単純に比較すべきではないが、「バンタム級までの両者を比較したら井上が上」という論は間違っていないように思える。

 だとすれば今後、井上もパッキャオのように世界的なスーパースター街道を歩んでいけるのか。そう問われた場合には、簡単に「イエス」とは言いがたい。

 パッキャオはフライ級~スーパーウェルター級の全8階級にわたって活躍し、6階級制覇を達成。アジアの島国出身の小柄なボクサーが、アメリカでブロイド・メイウェザーと同列に語られるほどのスーパーヒーローになった。井上に限らず、こんなとてつもない選手はもう2度と現れることはないだろう。

 ただ、ロドリゲス戦直後の欧米メディアの反応を見るまでもなく、わかりやすい魅力を持った井上も、"世界的な呼び物"になる素養を備えているのは間違いない。パッキャオの域までは難しくとも、軽量級らしからぬ豪快KOで人気になったノニト・ドネア(フィリピン)、派手な試合を続けてセンセーションを巻き起こしたゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)のような成功は可能だろう。そのために必要なのは、やはり上質なマッチメークになる。

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