熊本初の世界チャンピオン福原辰弥。地方ジムが挑んだ手づくりの闘い (4ページ目)

  • 古屋雅章●文 text by Furuya Masaaki

 福原も、この試合がハートの勝負になることは分かっていた。「映像で見たカジェロスは、相手が下がるとグイグイくるタイプで、そうなると向こうのペースになる。だから絶対に後ろに押されんようにせんといかん。『我慢比べの時間』があると思うので、そこで『気持ち』で負けんようにしないといかんですね」と決意を述べていた。

 そしていよいよ、運命のゴングが鳴る。「打ち合え、逃げたら負けぞ。初めからいけ!」というセコンドの本田会長の指示通り、初っ端から攻めた福原が1ラウンドを取る。2ラウンドには「一番効いた」というカジェロスのフックをもらうも、反撃に出てポイントを取り返すなど、序盤は福原の「気持ち」がカジェロスの「コラソン」に勝っていた。

 しかし、中盤の4R以降は徐々にカジェロスが押しはじめ、6Rに試合が大きく動いた。バッティングによって福原の左目の上瞼(まぶた)が切れたのだ。そこから一方的に打たれる福原に、本田会長やジム関係者からは「福原、回れ!」「正面に立つな、横に動け!」と声が飛んだ。福原はその声が聞こえていたが、体が反応できなかったという。「バッティングをもらってから、相手がぼやけて3人くらいに見えたんです。それで距離感が分からなくなって、相手の正面に立ってしまった」という状態で真っ直ぐに後ろに下がり、ロープを背負うことになった。

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