課題山積。山口香が語る「日本柔道界、腐敗の始まり」 (4ページ目)

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko

――今回はロンドン五輪での惨敗があって、女子選手のJOCへの告発があって、問題が表面化したように思えますが、そもそもこの全柔連のトップダウンの体質、不透明さはどこから始まったのでしょうか。

「私は2008年の北京オリンピック前年の世界選手権代表選考時だと思います。谷亮子と福見友子が戦って福見が勝ったにもかかわらず、谷が代表に選ばれてしまった。つまり、あそこで絶対にやってはいけない一線を踏み越えた。そして、それが認められてしまった。代表チームを司る組織が、五輪で結果さえ出せば、なんでもありなんだというところに踏み込んでいってしまった気がします。

 横紙破りが行なわれて正当化されたので、それ以後、何でもありになってしまった。そして、批判する人間を排除する『独裁王国』を作ってしまった。だから、福見はロンドン五輪で負けてたたかれましたけど、じゃあなんで北京の時に選ばなかったのかというのは......、これは彼女自身は絶対に口にしないと思いますけど、あそこで出場させておくべきだったんだという気がしますね」

── 一度コンプライアンスが決壊すると、そこからモラルハザードが始まってしまう。その意味では、勝った福見を選ばなかった選手選考からそれが始まったと。当時、山口さんはCAS(国際スポーツ仲裁所)まで持って行こうかと考えておられました。

「ふり返ってみれば、私はやっぱりあの北京オリンピックの選手選考から始まったと思います。そのことは組織がしっかりと反省するべきだと私は思います。当時のことを一度もふり返らずに、今起こっている事象だけで反省しようと思ってもただの火消しで終わってしまいます。それでは、何も変わらない。やってはいけないことというのは、絶対にあるんです」

――あのときも声を挙げられましたが、問題を矮小化されましたね。山口さんの教え子だから福見を推しているのだろうとか。

「そうなんです。でもそういうことじゃないんです。あの時、なぜ私がこだわったかと言ったら、谷さんはその2年前の世界選手権の代表が決まっていたんだけれど も、妊娠をしたということでキャンセルをして代表を辞退した。産休、育児ということで試合を離れた。これはケガとは違うので『選択』なんですよ。ここがまず重要なところです。

 私は選手の自由意志が尊重されるべきと思いますし、谷さんの強化選手としての権利も守られたわけです。そこは、柔道界はいい選択をしたと私は思います。そして1年半、合宿、試合から遠ざかっても、世界選手権の代表選考を決める大会では彼女の実績を重要視して第1シードにおいた。これは他の連盟であれば私はしなかっただろうと思いますし、彼女でなかったら、できなかっただろうと思います。彼女の実績という、そして女性の子どもを産む権利を守るというところでは、私は英断であったと理解はしています。

 ただし、1年半休んでいたということは、これは紛れもない事実ですから、彼女がその年の世界選手権に出場するためには、優勝するしかなかったんです。なぜならその1年半を必死に努力してきた選手たちがいるわけです。そしてその選手たちは実績を作ってきた。強化というのもそこにお金をつぎ込んでいるわけです。

 強化してきた結果、谷というレジェンドに対して福見が決勝戦で投げて勝った。力の差というよりはブランクがあったというのは当然あると思います。ただ、そこで福見が勝った以上、そのあとの世界選手権までの調整だとか伸びしろとかは抜きにして、1年半休んでいた選手を使うという選択肢はないんです」

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