【柔道】日本柔道、ロンドン五輪『惨敗』の真相 (2ページ目)

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • photo by JMPA

 だが、ロンドン五輪にいたるまで、精神面を鍛えるべく、合宿をびっしり詰め込んだスケジュールを組んでいたではないか。技術論で柔道を語ろうとせず、すべて精神論に集約させる篠原氏の姿勢に、反旗を翻(ひるがえ)した選手もいたという。篠原氏も「すべて私の責任です」と言うのなら、強化体制を根本から見直すべきだろう。

 もちろん、問題は体制側だけなく現在のJUDO界の潮流に対応できない選手の力量にもある。

 北京五輪と前後して国際ルールでは組まずに直接足を取りに行く技を禁止し、「効果」ポイントも廃止した。また、IJF(国際柔道連盟)が認める道着しか、試合で着用することが許されなくなった。これによって、試合を有利に運びやすい分厚い柔道着や袖の短い柔道着を着る選手はいなくなった。

 いずれのルール改正も組み合わない変則柔道を防ぎ、柔道本来の組み合って一本を目指す柔道に立ち返ろうという動きだった。加えて、今回の五輪で問題視されたジュリー(審判委員)によるビデオ判定も、試合を直接裁く立場にないジュリーが試合に介入し判定を覆すことの是非はともかく、これまで幾度も日本勢が泣かされてきた未熟な審判団による誤審や不可解な技の判定が減少したのは事実だ。

 こういったJUDOの潮流は、いずれも日本勢に有利に働くとみられていたが、ロンドンの結果は無残なものだった。平岡拓晃はロシアの選手に一本負けし、中井貴裕や穴井隆将などは、これまで日本勢が海外勢に対して絶対的優位を保っていたはずの寝技で敗れた。

 競技人口で日本を上回るフランスや韓国といった強豪国だけでなく、かつて変則柔道で日本を苦しめたロシアやグルジアといった国が、組んで投げて、寝技でも勝機を見いだす柔道で日本に勝利した。いわば、日本は海外勢に力負けしたのだ。それだけに失地回復は容易ではないだろう。

 ロサンゼルス五輪の男子無差別級金メダリスト・山下泰裕氏は金メダル「0」に終わった男子柔道を振り返り、このように語った。

「最低の結果。この事実を真摯(しんし)に受け止め、ゼロから作り上げていかないと、なかなか上がれないでしょう」

 ロンドンで突きつけられた課題をどう解決していくのか? 4年後のリオデジャネイロ五輪に向けて、日本柔道界に与えられた時間は多くない。

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