現役引退のロジャー・フェデラー。多くの人に愛されたスーパースターがテニス界に残した功績を振り返る (3ページ目)

  • 神 仁司●文・写真 text&photo by Ko Hitoshi

錦織圭にとって尊敬すべき存在

 2017年の全豪オープンで、当時35歳ながら復活優勝できたことを、フェデラーは思い出深い出来事のひとつとして挙げている。

 決勝の相手は、長年の好敵手であるナダルだった。彼もまた、2016年に左手首のじん帯を痛めるケガをしたが、フェデラー同様に難局を乗り越え、決勝の舞台に辿り着いたのだった。決勝は、3時間38分におよぶ5セットの名勝負となったが、フェデラーが5年ぶりとなるグランドスラムタイトルを獲得した。

「ふたりともに勝者にふさわしい試合だったけど、テニスには引き分けがないんだよね。それは時には残酷なことだ」

 決勝後にこう振り返ったが、4回戦では錦織圭(当時5位)とグランドスラムでの初対決が実現していた。

 4回戦は、3時間24分におよぶ5セットの激戦となったが、フェデラー(当時17位)は、錦織を破った瞬間にまるで優勝したかのようにコーチたちに向かって目を見開きながら雄叫びを上げ、飛び上がって喜んだ。結果的に、錦織からのこの勝利は、"ミラクル・フェデラー"復活優勝へのトリガーになった。一方、敗戦直後に錦織は次のようなコメントを残している。

「フェデラーも、ふと35(歳)かと思った。自分が35になった時、あれだけの体とモチベーションで戦えるのかなと、ちょっと想像したりはしました。すごいな、とシンプルに思った」

 錦織は、ジュニア時代から現在も、フェデラーをずっと尊敬し続けている。はたから見ていると、ちょっと尊敬しすぎなんじゃないかと思うほどだが、それだけ錦織にとって別格なのだ。

 フェデラーと最後の対戦となった2019年ウインブルドン準々決勝では、試合後に、「ここでやれてよかったですね。負けはしましたけど、強いフェデラーとやれたというのはすごくいい経験になったと思います」と錦織は振り返り、言葉の端端からは、いつまでも強くあってほしいという、変わることのない尊敬の念がにじみ出ていた。

「これで終わりではなく、人生は続いていく」と語るフェデラーは、今後のプランがまだ決まっていないとしながらも、おそらく何らかの形でテニスに携わっていくのではないだろうか。世界のテニス界に影響力の大きいフェデラーなだけに、そう望んでいる人々は多いはずだ。

 2009年、27歳の時のウインブルドン優勝で、ピート・サンプラスの記録を抜き、15個目のグランドスラムタイトルを獲得して、男子テニスの新記録(当時)を樹立したが、それ以降のことは、自分にとってボーナスのようなものだったと吐露する。

「15個目からさらに5回グランドスラムで優勝できてうれしいです。僕にとっては信じられないことだった。自分が長く活躍できたことをとても誇りに思います」

 あらためて稀代なるフェデラーのプレーを約24年間も目撃できたこと、そして同じ時代を生きて感動を共有できたことが、本当に幸運だったと感じる。

「すべての記録がなくても、ハッピーなんじゃないかな。僕はそう言いたい」

 引退会見で最後に残した言葉が、また謙虚なフェデラーらしく、心地よい余韻が残った。

 さらば、愛しきロジャー・フェデラー。

 今、テニス史のなかでひとつの時代が終焉を迎えたが、フェデラーのレガシーは永遠に語り継がれていくだろう。

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