レッドブルF1連覇を陰で支えた「レース戦略エンジニア」とは? 彼らは勝つために「40億通り」のシミュレーションを描く (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • photo by Oracle Red Bull Racing

クラウドを使った技術革新

 レース前の性能予測や、フリー走行での実走データからレース戦略をプランA、プランB、プランCと用意していくのは、容易に想像できる。

 しかしF1チームは決勝中も、その数百万通りのシミュレーションを1周ごとに繰り返している。そこにはライバルの戦略やペース、天候推移なども含まれている。そうすることで、より確かな戦略を導き出せるのだ。

「レース前の段階でシミュレーションを走らせ、それに基づいて戦略のベースプランを作成する。しかしレースが始まれば、さまざまなことが起きる。レース中はどんどんデータが蓄積されていくから。

 我々は毎周(その時の最新データで)シミュレーションを走り直させていて、誰かがピットインしたりセーフティカーが出たりといった外的要因も反映されて、どの戦略で行なえば最終結果がどうなるという予測が常にアップデートされていく。だからレース中に行なうライブシミュレーションは、戦略を考えるうえで非常に有益なものになっているんだ」

 その膨大な演算を支えているのが、タイトルスポンサーを務めるオラクルだ。技術革新をもたらす提携だからこそ、レッドブルはイノベーションパートナーと読んでいる。

「我々は『モンテカルロ・シミュレーション』と呼ばれるそのシミュレーションを、オラクル・クラウド・インフラストラクチャー(OCI)を使って走らせている」

 従来はファクトリーに設置したスーパーコンピュータで行なっていたシミュレーション演算を、クラウド上のコンピュータに任せる。

 そのメリットは主にふたつあり、ひとつはコスト面。高価なコンピュータを常に最新型にしていくコストと、演算を必要とするレース週末以外の電気代・冷却費用などの維持費を、『PAY AS YOU GO』で使った日数分だけ払うことで削減することができる。2021年からコストキャップ制度が導入されただけに、F1チームにとってこれは重要な側面のひとつだ。

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