MotoGP元王者が長期低迷。ロレンソがホンダに順応する日は来るのか (5ページ目)

  • ニール・モリソン●取材・文 text by Neil Morrison
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 このような経過を見てくると、いやでもこんな疑問が沸く。さらに事態は悪化するのだろうか? アッセン(第8戦・オランダGP)とザクセンリンク(第9戦・ドイツGP)では、果たして光明が兆すのだろうか? このふたつは、彼の二大不得意コースだというのに。

 たしかに、トンネルを抜け出せない可能性はある。ただ、モンメロでのロレンソは明らかに手応えを掴みかけていた。今シーズンのなかで「もっとも手応えのあったウィーク」だとロレンソは述べていた。そう、日曜の決勝レースで、スタートしてから23個目のコーナーを抜けるまでは、あの絶品のロレンソだったのだ。切れ味鋭く鮮やかなライン取りで、オープニングラップに6つもポジションを上げて、あっという間にトップグループに迫っていった。

 6月上旬に日本へ飛んでHRCを訪ねたことは、明らかに収穫をもたらした。ライディングポジション改善の取り組みとしてアップデートされた燃料タンク形状は、ブレーキング改善におおいに貢献した。「ホンダはすごく迅速に対応してくれた」と、ロレンソは月曜の事後テスト後に話した。「僕のために新しいモノをすぐに作ってくれる彼らの対応力には本当に舌を巻くよ」。レース人生屈指のつらく厳しい結果を味わった翌日にもかかわらず、彼はすでに将来を見据えているのだ。

 ここで、冒頭に触れた「不屈」の話題へ戻る。

 歴史が真に繰り返すものであるならば、ロレンソは今の彼がいる場所から、かならず立ち上がってくるだろう。この男は、両足首を骨折した2日後に4位のチェッカーフラッグを受けたライダーなのだ。バレンティーノ・ロッシと熾烈なチャンピオン争いを繰りひろげた際には、相手を自滅に追い込んでタイトルを勝ち取ったライダーなのだ。そして、ドゥカティのCEOに「ただの優秀な選手」だと実績を揶揄された10日後に、優勝を飾ってしっぺ返しを食らわしたライダーなのだ。

 ロレンソはかならず復活する。それ以外に選択肢はない。なぜならば、たとえ人生が艱難辛苦の連続だとしても、いや、そうであるからこそ、彼にはそこしか進む道がないからだ。

西村章●翻訳 translation by Nishimura Akira

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