天皇賞・春でナリタブライアンと伝説の名勝負 「ウマ娘」で描かれるサクラローレルはどれほどの名馬だったのか (2ページ目)

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • photo by Kyodo News

【初のGIで名勝負】

 長いブランクをものともせず、高い能力を見せつけた一戦。陣営はすかさずGⅠへの挑戦を決めた。それが1996年の天皇賞・春だ。

 この馬にとって初めてのGⅠ出走。そしてまた同期ナリタブライアンとの初対決も実現した。といっても、ファンが注目していたのはサクラローレルよりも、ナリタブライアンとマヤノトップガンの対決だった。

 繰り返すが、ナリタブライアンは4歳までにクラシック三冠を含めたGⅠを軒並み圧勝。鼻先につけたシャドーロールという馬具がアイコンとなり、「シャドーロールの怪物」と呼ばれた。

 そのあと、この怪物もケガに見舞われ1年近くスランプに陥った。ただ6歳となったこの年、復活をかけてGII阪神大賞典に出走。そこで競馬史に残るレースを繰り広げる。

 阪神大賞典では、1歳下でGⅠ連勝中のマヤノトップガンも出走。2頭は3コーナーから先頭に立ち、完全なマッチレースを演じたのだ。他馬がみるみる離れるなか、ゴール板まで馬体を並べて叩き合った。結果はアタマ差でナリタブライアンの勝利。今も語り継がれる名レースである。

 その2頭がふたたび天皇賞・春で対決する。当然ファンが期待するのはマッチレースの再来だ。それは単勝オッズにも表れており、1番人気ナリタブライアンは1.7倍、2番人気マヤノトップガンは2.8倍と圧倒的な支持を集めた。サクラローレルは3番人気だったが、単勝オッズは14.5倍と大きく離れていたのである。

 新緑のなかでゲートが開いた天皇賞・春。レース途中からマヤノトップガンが前に行き、直後にナリタブライアンがつける展開。サクラローレルは2頭から少し離れて、虎視眈々とインコースに控えていた。

 京都名物の3コーナーの坂を迎えると、栗毛のヤマノトップガンの馬体が上がっていき、そのうしろをナリタブライアンが追いかける。4コーナー手前では2頭が早くも先頭に立ち、マッチレースの気配が場内を占めた。アナウンサーも「またまた平成の名勝負になるのか」と興奮気味に伝える。

 しかし、その2頭の後ろを絶妙な間合いで追いかけている馬がいた。サクラローレルだ。残り300m、ナリタブライアンの黒い馬体、揺れるシャドーロールがマヤノトップガンを交わし、怪物復活を予感させたのも束の間、サクラローレルはもう背後に迫っていた。

 それからほんの数秒、サクラローレルは力強い末脚でナリタブライアンを交わした。並ぶこともなかった。1年以上のケガを乗り越え、同期の怪物をなぎ倒した瞬間である。「桜が満開になる京都競馬場」というアナウンサーの言葉が聞こえた。

 そのあと、サクラローレルは年末の有馬記念を制して年度代表馬に。そして翌年、7歳になった同馬はふたたび天皇賞・春の舞台へ。前年の出走馬マヤノトップガンに加え、こちらも遅咲きの素質馬マーベラスサンデーとの「三強対決」となった。

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