「ゾーンに入った」藤田菜七子。夏競馬でどえらい成績をあげている (2ページ目)

  • 土屋真光●文・写真 text & photo by Tsuchiya Masamitsu


ウィメンジョッキーズワールドカップで総合優勝を果たした藤田ウィメンジョッキーズワールドカップで総合優勝を果たした藤田 結果自体もそうだが、それ以上に驚かされたのは、藤田の騎乗に向かう姿勢だった。5戦のうち、とくに勝った2戦と2着の1戦は、周囲の出方やペースを的確に判断。初めて騎乗するコースで最適解ともいえる騎乗を心がけ、実際にその通りに乗ってみせた。

 これまで藤田は、国内では中央だけでなく地方の各地、国外ではアブダビ、マカオ、スウェーデンなど、多くの競馬場で経験を積んできた。とりわけ、招待競走や、先述のフェブラリーSなど節目となるようなレースの後には、「この経験を糧に今後に活かしていきたい」というコメントが藤田の口から毎回のように出ていた。それは決して"お約束"の定型句ではなく、実際に藤田の引き出しとなり、この大一番でそれらをフル活用してみせたのだ。

 これは今までと何かが違う、と筆者は感じた。力強くなった騎乗姿勢もさることながら、レース運びにクレバーさを感じることができたからだ。また、引き出しが増えても、レースの中で的確に選び、開け閉めできなければ意味がない。それを可能にするフィジカルと、冷静に対応できるメンタルを得つつあるように思えた。ワールドカップ優勝によってより自信をつけたのであれば、今まで以上の活躍をするのではないか、という予感めいたものに繋がった。

 同じようなことを、イギリスのアスコット競馬場の主催者も感じたのだろう。8月10日の騎手招待競走"シャーガーカップ"に藤田を選出。これも話題性ではなく、藤田が"世界チャンピオン"になったからこそ実現したことだ。

 シャーガーカップでは5レース中で最高が4着(12人中)だったが、ウィメンジョッキーズワールドカップを制した後の、7月から8月にかけての福島、新潟開催のレースで、藤田は「ゾーンに入った」とも言うべき活躍をした。

 7月6日から8月18日の間で85戦10勝と、勝率は11.8%に上り、芝のレースに限れば52戦8勝で勝率は15%を超える。デビュー以来の通算勝率が4.3%、昨年の勝率が4.5%だったことを考えると驚くべき数字だ。現在、関東所属の騎手で、今年の勝率が15%を超える騎手がいないことを考えても、実績が話題を先行するようになってきたというのも大げさではない。

 今年から、女性騎手には恒常的に2kgの斤量のアドバンテージ(特別、重賞競走を除く)が与えられることになった。もちろん、その効果もあってではあろうが、そのチャンスをきちんとモノにできること自体を評価すべきだろう。

 この夏に勢いに乗った藤田が、秋競馬でどこまで爆走するのか。期待は増すばかりだ。

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