【男子ゴルフ】2012年、石川遼は「最後のピース」を手に入れた (2ページ目)

  • 三田村昌鳳●文 text by Mitamura Shoho
  • photo by YUTAKA/AFLO SPORT

 ただし、いきなり世界を見てしまった石川は、そこで必要な1000ピースを目の前にばらまかれたに過ぎなかった。ゆえに、完成形となるパズルの見本などなく、どのピースをどこに当てはめればいいのか、さっぱりわからなかった。この場面で使うべき技術は何なのか、この条件で選択すべきプレイは何なのか、まったくわかっていなかった。

 すると、必要のないピースを拾い上げてしまうこともあるし、間違ったところにピースを置いてしまうこともある。それでも、世界で戦うことを目標とした彼は、右往左往しながらも、とにかく使用すべきだと思ったピースをひとつひとつパズルに埋めていくしかなかった。

 2年間、試行錯誤を繰り返してきたのは、そのためだ。世界仕様の体作りをはじめ、スイングもあれこれ修正を繰り返した。

 プレイでは、見ている側が「この場面でなぜそんな狙い方をするのだろう」「何を考えてゴルフをやっているんだろう」と疑問に感じるシーンが多々あった。無意味なことやミスジャッジがたくさんあって、試合の成績に反映しないことが多かった。

 その不振ぶりを見て「スランプ」と称する人もいたが、石川のそれは決してスランプではない。あれもできない、これもできないといったマイナス要因によるものではなく、あれができるように、これができるようにと前向きの、先を見据えての結果だからだ。

 石川はただひたすら、「世界で戦うための」ひとつひとつのピースを埋めていたに他ならない。自分がやりたいこと、やるべきことを貫いてきただけだ。そのためなら、今を捨てられる。そこに、石川の強さがあり、希望があった。

 そして2012年11月、石川は三井住友VISA太平洋マスターズで2年ぶりの優勝を飾った。最終日、首位の石川は、2位に1打差で最終18番のロングホールを迎えた。その第2打、2位の松村道央が2オンに成功し、後から打つ石川も果敢に2オンを狙った。グリーン手前には池があり、ミスすれば優勝が手元からこぼれてしまう状況だったが、石川はピン手前にボールをきっちり運んだ。

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