偽9番システムでジョアン・ネベスが得点量産 完成されたトータルフットボールの姿 (3ページ目)
【秩序ある混沌】
流動性のトリガーになるのがCFデンベレである。
デンベレが中盤に下りる、サイドに開く、といった動きに呼応して全体が動き出す。そしてCFがいなくなった場所には、さまざまな選手が出ていく。ドゥエ、バルコラ、クバラツヘリアのFWに限らず、ジョアン・ネベスやファビアン・ルイスも頻繁に最前線に出る。左サイドバック(SB)のヌーノ・メンデス、右SBアクラム・ハキミがトップにいることさえある。
偽9番システムというと、CFが不在のゴール前に人が足りないという事態もよく起こりがちなのだが、PSGはそうならないようなルールが定められているのだろう。ボックスに入っていくのが誰かは決まっていないが、ラストパスが入ってきそうなタイミングでは少なくともふたりは必ずいる。
その流動性は無秩序にも見えるが、意外とルールが決まっているのではないか。ある程度の法則が見て取れるからだ。
まず偽9番のデンベレが中盤に引く、あるいはサイドへ流れる。中盤に引く時はヴィティーニャと連係できるところまで引く場合が多い。デンベレが引いて空いた前線の中央にウイングが移動すると、それと連動してSBがサイドの高い位置へ進出する。ジョアン・ネベスやファビアン・ルイスが上がるなら、ウイングは外へ開くかインサイドハーフとして振る舞う。誰がデンベレとポジションを入れ替えるかは決まっていないが、この誰かによって次のアクションが決まってくる。
つまり非常に複雑に見えて、じつは誰の動きを見ておくべきかがそれぞれ決まっているのではないか。
たとえば、左ウイングのバルコラと左SBヌーノ・メンデスはセット。バルコラが中へ入ったらヌーノ・メンデスが外。右はデンベレが右サイドへ開くことが多いので左よりも少し複雑だが、ドゥエ、デンベレ、ハキミがそれぞれの動きに連動する。ジョアン・ネベスとファビアン・ルイスはどちらかが前線なら、もう一方は中盤に残る。大きなユニットが3つあって、そのなかでバランスを取ることで全体のバランスもとれているようだ。
センターバックふたり以外はかなり自由に動きながら混乱は起きていない。デンベレが引けば、誰かが前進するというように、逆方向の動きがセットになっている流動性なので、守備側にはかなり捕捉しにくくなっているのも特徴である。
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