プレミアリーグを追放されたグリーンウッドが復活 鬼才デ・ゼルビ監督が能力を引き出す
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第23回 メイソン・グリーンウッド
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。今回は、10代にマンチェスター・ユナイテッドで華々しくデビューしたメイソン・グリーンウッド。現在23歳で、フランス・マルセイユで復活中です。活躍の背景は?
【チームのスタイルと符合する得点率】
メイソン・グリーンウッドは18歳でプレミアリーグ10得点を記録したワンダーボーイだった。10代で2桁得点はプレミアで3人目の快挙。
しかし素行に問題があった。イングランド代表の活動期間中に、コロナ禍にもかかわらず女性を連れ込んで代表から追放され、さらに暴行容疑で逮捕されて1シーズンを棒に振る。最終的に不起訴にはなったが、マンチェスター・ユナイテッドからスペインのヘタフェへ期限付き移籍。今季からマルセイユでプレーしている。
今季マルセイユで持ち前の才能を発揮しているメイソン・グリーンウッド photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る マルセイユでは第11節終了時点で8ゴール、得点ランキングの2位。チームもパリ・サンジェルマン(PSG)、モナコに次ぐ3位と好調だ。
グリーンウッドはチーム全体の約3分の1の得点を叩き出しているが、シュート数は23本なので1試合平均だとほぼ2本程度しか打っていない。流れのなかのシュートは約30%が得点ということになっている。
グリーンウッドの比較的高い得点率は、マルセイユのプレースタイルとシンクロしているのが興味深い。
今季からロベルト・デ・ゼルビ監督が指揮を執るマルセイユは、ボール保持率が高い。11試合の平均は59.5%だが、リヨン戦(第5節)とPSG戦(第9節)は前半の早い時間に退場者を出していて、この2試合を除くと平均65.7%と非常に高いボール保持率だ。
一方、シュート数は保持率に比べるとあまり多くはない。平均7.3本。前記の退場者を出した2試合を除いても平均8.2本である。しかもシュート数が増えたのは第8節のモンペリエ戦からで、それ以前の7試合は平均5.7本しか打っていない。7試合の得点数は16。試合平均で2.28得点なので、シュートを打てば約40%が得点になっていたわけだ。
ボール保持率は高い。しかしシュート数はあまり多くない。そして打てば半分くらいは得点になる。これが今季のマルセイユの特徴である。
さして多くないチャンスを確実に決めてきた、グリーンウッドのプレースタイルに重なるわけだ。
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著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。