久保建英、物議を醸すパフォーマンス だがその「憤激」がスーパーゴールを生んだ

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

 8月24日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英(23歳)は、エスパニョールとの敵地戦で控えスタートだった。67分に交代出場すると、定位置の右サイドに入っている。そして80分、右サイドから鋭くドリブルで切り込み、左足で1-0の勝利に結びつく得点を決めた。

「ベンチスタートは驚きで、久保が気に入るはずもなかった。怒りとともにピッチに入り、決勝点の主役となっている。右サイドからカットインするプレーで、エスパニョールのGKを打ち抜き、スーパーゴールは勝ち点3を意味した。ユニフォームの名前を見せつけ、名誉を回復。イマノル(・アルグアシル監督)へのメッセージだったか?」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、久保が控えだったこと、途中出場でのゴールを高く評価し、物議を醸すゴールパフォーマンスについても言及している。

 久保はゴール後、祝福に来たチームメートたちをはねのけ、喜びを共有しようとしなかった。そしてベンチの近くでスタンドに背中を見せ、両手でユニフォームの肩のあたりを釣り上げた。表情は怒っていたようで、それは彼らしいパフォーマンスだった――。

エスパニョール戦で決勝ゴールを決めた久保建英(レアル・ソシエダ) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIAエスパニョール戦で決勝ゴールを決めた久保建英(レアル・ソシエダ) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIAこの記事に関連する写真を見る 控え目に言って、ゴール前後の久保は怒っていた。

「怒りで我を忘れるな」

 日本ではそう体のいい指導をすることがある。それはひとつの定石だが、真理ではない。ラテンの国の選手たちは、多かれ少なかれ、怒ることで集中力を最大限まで高める。怒ることでトランス状態に入る。アスリートのゾーンにも近い。誰が何を言おうが、何をしてこようが、味方でさえ、"自分に従わないなら必要ない"となぎ倒す覇気というのか。日本的に言えば「覚悟」と言い換えられるかもしれないが、もっと血なまぐさいものだ。

「Rabia」(ラビア)

 スペイン語で「激怒、憤激」を意味する。それはプロサッカー選手として成功するため、スペインでは不可欠なものと言われる。とりわけ、アタッカーのポジションで「Rabia」を表に出せない性格は致命的だ。

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著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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