パリオリンピック男子サッカー金メダルのスペインが指し示す、日本サッカーの進むべき道 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

【バルセロナ育ちが大量に選ばれて】

「スペインはサッカー大国、日本が彼らのようにできるはずがない」

 そんな意見もあるだろう。しかし本気で「ワールドカップ、ベスト8」を狙うなら、スペインに比肩するようなサッカーで、強豪を打ち倒すしかない。体格で劣る日本がフランスのような強度の高い、効率的なサッカーを真似ても、たかが知れている。偶発的にジャイアントキリングを起こせても、その強さは一過性で受け継がれることはない。

 スペインは育成年代から、とにかくボールプレーにこだわっている。それもポゼッションのためのポゼッション、ではない。今やモダンサッカーにどんどん適応し、選手のキャラクターや質も変化。ユーロ2024では、ガーナ系のニコ・ウィリアムズ、モロッコ系のラミン・ヤマルという新鋭たちがスペインという育成環境で爆発的な成長を見せたように、常に革新がある。

 フェルミン以外のパリ五輪金メダルメンバーにも、バルサ下部組織ラ・マシアで育った選手たちが大勢いた。GKアルナウ・テナス、DFエリック・ガルシア、パウ・クバルシ、ファン・ミランダ、MFセルヒオ・ゴメス、アドリアン・ベルナべ、FWアベル・ルイスなどの選手がボールプレーの素質を見込まれ、とことん鍛えられてきた。彼らはフランスの選手のように大きくも強くも速くもなかったが、俊敏でうまく、何より賢かったのである。
 
 彼らと同じような体格の日本人も、「フットボール」を基準とすべきだろう。

 人は勝負を目の前にすると、すぐに効率を目指し、フィジカルやメンタルの強さで勝とうとする。「ハードワーク」や「縦に速いサッカー」など、その典型だろう。しかし、それはボールゲームにおける重要な要素のひとつであっても、戦いの軸ではない。ハードワークでボールを受け、もしくは相手のボールの繋ぎを止め、あるいは縦へのボールをしっかり蹴り、コントロールし、相手を脅かす......それらは手法のひとつでしかないのだ。

 サッカーは徹底的に「ボール」を追求すべきである。そこからスペースが見えてきて、タイミングがわかってくる。そうした能力に優れた選手を引き上げるべきで、その集団は切磋琢磨し、強さの連鎖を生む。

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