ユーロ2024でウクライナ代表が訴えた厳しい現状 シェフチェンコや選手が発信する現実【ウクライナ人記者・特別寄稿】 (2ページ目)

  • ボフダン・ブハ●取材・文 text by Bohdan Buha
  • 井川洋一●翻訳 translation by Igawa Yoichi

【練習や試合は空襲や警報でしばしば中断】

 今大会に出場したウクライナ代表には、ジンチェンコ(アーセナル)やミハイロ・ムドリク(チェルシー)、アルテム・ドフビク(ジローナ)、アンドリー・ルニン(レアル・マドリード)ら、国際的に名の通るタレントが揃っていた。

だが必然的に注目を集めたのは、ディナモ・キーウやシャフタール・ドネツクら、国内リーグでプレーする選手たちだ。

 彼らはリーグ戦を消化することだけでも、困難を強いられている。バスや電車を乗り継ぐ、長く険しい道のりを経て各地へ遠征し、練習や試合は空襲やその警報で、しばしば中断される。公式戦が4、5時間をかけて終わることも珍しくない。

「信じられないほどのコントラストだよ」と説明するのは、シャフタールのMFヘオルヒー・スダコフだ。「たとえばヨーロッパリーグ(EL)の試合でマルセイユに遠征すれば、そこには6万人を超えるファンが集まってすばらしい雰囲気をつくっている。その後に帰国して国内リーグのアウェー戦に行くと、無観客のなか、何度も空襲警報で試合が中断するのだから」。

 当然ながら、ウクライナ代表の選手や監督にとって、戦場からのニュースは他人ごとではない。

 レブロフ監督──現役時代にシェフチェンコと高速2トップを形成した元代表アタッカー──は、東部ドネツク州ホルリウカ出身で、その故郷は2014年からロシアに支配されている。

ディナモ・キーウに所属するライトバック、オレクサンドル・ティムチクは戦場で兄弟を亡くした。0-3の完敗を喫した初戦のルーマニア戦には途中から出場し、2-1で勝ったスロバキア戦とスコアレスドローに終わったベルギー戦にフル出場した27歳は、早期敗退に胸を痛めていた──自らのためではなく、ウクライナのファン、とりわけ兵士たちのために。

「ウクライナ人であることを誇らしく思う」とティムチクはベルギー戦後に言葉を絞り出した。「僕たちはすべてを出し尽くした。愛する国、そして英雄たちのために。だが、彼らを落胆させてしまったことも事実だ。ひどい気分だよ。彼らに謝りたい」。

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