ブラジル人記者が嘆く「サッカー王国」の没落 五輪予選敗退は氷山の一角にすぎない (2ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

【選手は自分たちが強いと信じているが...】

 その後、94年から2002年まで、ブラジルは3大会連続でW杯の決勝まで進み、うち2度の優勝を果たしたが、これは50年以降半から60年代に見せた絶対的な強さに比べ、かなり運に助けられたものだった。

 94年アメリカ大会では、準々決勝オランダ戦の81分、ブランコのFKがたまたまゴールに入って決勝点になったこと、そしてイタリアとの決勝のPK戦でロベルト・バッジョが外したことで優勝を手にしている。98年フランス大会のブラジルは強かったが、決勝でロナウドが体調不良となり、勝つことはできなかった。

 そして2002年、横浜で優勝したセレソンはいいチームだったが、ベストのチームではなかった。しかしブラジルはここでまたも「強い」という幻想を抱いてしまう。そのつけを払っているのが2006年から現在に至るまでだ。これ以降ブラジルは1度も優勝していない。いや、決勝にさえたどり着けていない。

 それなのに、今の選手たちはかつての先達たちが打ち建てた「サッカー王国」の看板を背負うことで、自分たちは強いと信じている。W杯に行く時はプレーのことではなく、ヘアスタイルのことを気にする。タトゥーアーティストを同行させる。

 以前から、ブラジルの選手は問題を起こすと言われていた。それはエジムンドのようにカーニバルに参加したくてクラブへの帰国が遅れたり、ソクラテスのようにビールを飲むのを止められたので退団するなどといったトラブルだった(まあそれでも迷惑な話だが)。

 だが現在起きている問題は本当に司法の手にかかるほど悪質だ。先日もダニエウ・アウベスが有罪となったが、いったい何人の選手が婦女暴行で訴えられているか。

「サッカー王国」ブラジルのスターたちは、若いうちから多くのチームから声がかかり、未成年で大金を掴み、周囲からはちやほやされる。そんな選手たちは、自分は「偉い」「無敵」「何をしてもいい」と勘違いしてしまう。その根底には教育の欠如がある。彼らはあまりにも単純なのだ。

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